脳に関連する情報や文献を理解するために、基礎的な部分についての素人勉強をまとめた脳の勉強ノート、第2弾です。
目次
1.神経細胞:ニューロン
2.神経細胞のつなぎ目:シナプス
3.神経伝達物質は脳機能を調整している:脳内ホルモン
4.代表的な神経伝達物質と発生する部位
5.“知りたがりの虫”に任せて、雑学的に
6.主な参考資料
7.関連エントリー
1.神経細胞:ニューロン
細胞体、樹状突起、軸索
じくさくから構成される
ひとつの神経単位が
ニューロン(脳を構成する神経細胞の呼び名)。
細胞体から
樹状突起と呼ばれるものが何本も突き出し、しっばのように伸びた
軸索じくさくは、
髄鞘ずいしょうと呼ばれるさやのようなものにくるまれている。
私たちの体は、60兆個もの細胞でできているといわれる。体内の素早い情報伝達の役割を担うのは神経細胞。神経細胞は全身に張り巡らされた神経系に存在するが、そのすべてを統括する脳内に最も集中し、大脳皮質だけで140億個、脳全体では約千億個もある。
細胞の寿命は長くても10年ほどだが、神経細胞は100年以上の寿命を持つといわれる。
神経細胞が、普通の細胞と違って、長い枝のようなものを四方に伸ばしているのは、別の神経細胞と情報をやりとりするため。神経細胞内では、情報は
電気信号として送られる。
樹状突起で前の神経細胞から情報を受け取り、
軸索の末端から次の神経細胞に情報を送る。つまり、
樹状突起は入力、
軸索の末端は出力を担当。
軸索は基本的に1つの細胞体から1本出ているが、
樹状突起は木の枝のように分岐しており、ほかの神経細胞に情報を送る。1個の神経細胞は1万個もの神経細胞と連絡を取り合っている。

2.神経細胞のつなぎ目:シナプス
ニューロン同士が接合する部分を
シナプスといい、2つの細胞の問にあるわずかな隙間を
シナプス間隙と呼ぶ。電気信号は、この隙間を飛び越えることができないので、
神経伝達物質という化学物質に一度変換される。
ニューロンの
軸索末端には、
神経伝達物質の貯蔵庫のような役制を果たしている
シナプス小胞と、カルシウムイオンを通す
カルシウムチャネルがある。

- ニューロンの軸索から電位が伝わり、軸索終末部に到達する。
- 電位によりカルシウムイオンチャネルが開く。
- カルシウムイオンが軸索終末部に流入し、それが刺激になって、シナプス小胞が細胞膜に接して神経伝達物質を細胞外に開口放出。
- 神経伝達物質はシナプス間隙を拡散し、樹状突起(受側)の細胞膜上に分布する神経伝達物質受容体に結合。
受容体:レセプターとは、ある特定の分子が結合し、情報を受け取る部位。
最近の研究で、後シナプスの受容体だけでなく、前シナプスのトランスポーターに吸収されるものもあることが分かっている。 - 樹状突起側のシナプス後膜のナトリウムイオンチャネルが開き、ナトリウムイオンが細胞内に流れ込み、小さな脱分極(シナプス後電位)が生じる。
これにより、そのチャネル付近の電位差が崩れる。すると、となりにあるチャネルも電位差の異常を感知し、穴をパッと開く。すると、そのとなりのチャネルも…と連鎖反応を起こす。穴が開く時間はおよそ1000分の1秒なので、この瞬間的な動きがドミノ倒しのように伝わっていく。 - たくさんのシナプス後電位が足し合わされて十分な電位変化となると、活動電位が生じ、情報は再び電気信号としてリレーされていく。
(1項に記載のように)1つのニューロンには1万個のシナプスがある。
3.神経伝達物質は脳機能を調整している:脳内ホルモン
上記のように、神経伝達物質は、ニューロンの細胞体で生成され、シナプス小胞に貯蔵される。放出されると、次のニューロンのシナプスにある特定の受容体が受け止める。例えば、代表的な神経伝達物質であるグルタミン酸を受け取ることができるのは、グルタミン酸の受容体。
1つのニューロンは1種類の神経伝達物質しか出さない仕組みになっている。また受容体も1種類の神経伝達物質しか受け取らない。
さらに、単に情報を中継するだけでなく、次のニューロンを興奮させて活性化したり、反対に興奮を抑制したりすることで脳機能を調整している。俗に
脳内ホルモンとも呼ばれる。
ホルモンは本来、血流に乗って全身に運ばれて作用する物質のことで、シナプス間隙という狭い空間で作用する神経伝達物質とは区別される。4.代表的な神経伝達物質と発生する部位
神経伝達物質には、わかっているだけで
60種類以上あり、種類によって発生場所や働きが異なる。

神経伝達物質の多くは、興奮性
(受け取る側のニューロンを興奮させる)と抑制性
(受け取る側のニューロンの興奮を抑制させる)の両方の働きをもつが、
グルタミン酸は興奮性に、
γ-アミノ酪酸(別名
GABA),
グリシン,
セロトニンの3種は
抑制性に分類される。
脳内のあちこちでは、常に下表のような神経伝達物質が放出され、興奮と抑制のバランスをとっている。これにより、脳は正常に機能し心身の健康も保たれる。
間脳の 視床下部、下垂体、など | 脳幹の 青斑核、縫線核ほうせんかく、など |
ヒスタミン 視床下部に集まり、ここから脳内各所に投射される。 睡眠や食欲の調整、学習記憶などの機能をもち、自律神経の調整にも影響する | グリシン 抑制性 アミノ酸の一種で、脳幹や脊髄にある。 抑制性の神経伝達物質として働く一方、ニューロンを興奮させる作用があることも知られている |
エンドルフィン 視床下部や下垂体に多く、鎮痛効果や幸福感が得られることから「脳内麻薬」とも呼ばれる。 ランナーズハイもこの物質の作用とされる | ノルアドレナリン 青斑核などで生成。 アドレナリンの前駆体で、覚醒力を強め、血圧を上昇させる。減少するとうつ状態に、過剰になると攻撃性につながる。 |
オキシトシン 視床下部で生成され、下垂体からホルモンとして分泌されるほか、辺縁系などで神経伝達物質としても働く。 俗名:愛情ホルモン | セロトニン 抑制性 縫線核でつくられる。 全身にあるセロトニンのうち、脳内には2%しかないが、ほかの神経伝達物質の過剰放出を抑えて、気分や感情をコントロールし、精神に安定をもたらすため、俗に幸せホルモンとも呼ばれている。 |
これらは、アミノ酸系、モノアミン系、神経ペプチド系の3種類に分類される
アミノ酸系 | グルタミン酸 GABA グリシン |
モノアミノ系 | ドーパミン ノルアドレナリン セロトニン ヒスタミン |
神経ペプチド系 | エンドルフィン オキシトシン オレキシン |
その他 | アセチルコリン |
ドーパミンや
ノルアドレナリンは、やる気を起こさせる物質として知られているが、少なすぎると意欲が低下して、うつ状態になり、反対に過剰に放出されると、様々な問題を引き起こす。
5.“知りたがりの虫”に任せて、雑学的に
ノルアドレナリンとアドレナリンの違い
両者とも
興奮にかかわる物質だが、下記のように大きな違いがある。
| ノルアドレナリン | アドレナリン |
主に生成する場所 | (4項のとおり) 脳幹の青斑核などで作られる (副腎髄質でも作られる) | (腎臓の上にある) 副腎髄質ふくじんずいしつで作られる (副腎以外では合成されない) |
作用する場所 | 脳全体と交感神経 脳への作用が中心 (主に心に効く) | 間脳の視床下部と末梢神経 各器官への作用が中心 (主に体に効く) |
作用 | 感覚がするどくなったり、注意力が上がったり、記憶力がよくなる | 血圧や血流量の調節にかかわる「細動脈」や 「細静脈」という血管を収縮させて 血圧を上げ心臓にもどる血液量を増やす。 一方で筋肉(骨格筋)の血管は拡張し 筋肉に送られる血液量を増やして 筋肉が動きやすく活動しやすくなる。 肝臓に蓄えられているグリコーゲンやアミノ酸からエネルギー源となるグルコース(ブドウ糖)をつくる反応を活性化し血糖値を上げる。 |
備考 | | アナフィラキシーがあらわれたときに使用する自己注射製剤『エピペン』の成分 |
ニューロンから分泌されたノルアドレナリンは、神経伝達物質に分類されるが、一方で、 副腎から分泌されたノルアドレナリンやアドレナリンは、ホルモンに分類されている。名前が似ているのは、物質として、ノルアドレナリンはアドレナリンの前駆体だから。(前駆体のノルアドレナリンが様々な酵素の働きによってアドレナリンになる。その酵素は
腎臓の上にある副腎髄質にのみ存在する。)
ストレスを感じると副腎髄質からアドレナリンが出る仕組み- ストレスや感情が高まる状況や何かに熱狂した状況を、脳内の大脳辺縁系が感知する。
- 視床下部が交感神経を興奮させる。
交感神経は脊髄を伝ってさまざまな臓器や血管とつながっており、機能を調整している - 副腎の内側にある髄質が交感神経の刺激を受け取り、アドレナリンを分泌する。
- アドレナリンが血液の中に入り、全身をめぐって様々な臓器に届く。
話がかなり逸れますがかぜ薬、鼻炎用点鼻薬、 鎮咳去痰薬、 などに配合されている『アドレナリン作動成分』って何?
アドレナリンやノルアドレナリンと同じような化学構造をもって
交感神経系の働きを増強し、血管収縮作用や気管支拡張作用などを得ることができる有効成分。
- メチルエフェドリン塩酸塩
- メチルエフェドリンサッカリン塩
- トリメトキノール塩酸塩
- ナファゾリン塩酸塩、など。
出典:第1章 アドレナリン作動成分ってなんだ(よくわかる一般用医薬品)話がかなり逸れますが血糖を調整するホルモン
出典:インスリン(左利き肝臓専門医ブログ 2017/8/22 高橋医院) さらに逸れますが交感神経と副交感神経(自律神経の基礎知識)
さまざまな内臓器官の働きを調節し、意志でコントロールできないのが
自律神経。
休息時には
副交感神経、活動時には
交感神経が活発になる。
例えば、胃腸を活発に働かせるのは副交感神経、心臓の心拍数を増やすのは交感神経。このように副交感神経と交感神経は、協調しながら多くの器官をきめ細やかに調節している。しかし、汗腺や血管のほとんどは交感神経だけが支配しており、体温の調節と血圧のコントロールを担っている。
大昔の人間の生活を思い浮かべてみると理解しやすいかも。
獲物を追いかける、外敵と戦うといった戦闘態勢にあるときは、交感神経が活発になる。遠くの獲物や敵を判別するために瞳がカッと開き、脳は興奮し、心拍数も増加。追いかけたり逃げたりするときに、ゆっくり呼吸をしたり食事や排泄をしたりする余裕はないので、呼吸が速くなり、胃腸の動きは抑制され胃腸での酸素需要を減らし、膀胱も弛緩し蓄尿する。
しかし、外での活動を終えて家に戻ったら、副交感神経が活発に働く。安心しているので脳が落ち着き、食事をするので唾液の分泌量が増え、胃腸は活発に動き、膀胱も収縮し排尿する。これらの状況を現代人に置き換えると、仕事をしたり緊張したりするときは交感神経が、休んだりリラックスしたりするときは副交感神経が活発になっていると理解できる。
6.主な参考資料
個別に出典を記載した資料の他は以下の資料。
●図解でわかる 14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来(インフォビジュアル研究所(著), 松元健二(監修))
●
第13回 神経伝達物質の謎(生命科学DOKIDOKI研究室
シリーズ2 脳の不思議を考えよう)
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