データ更新。2019/11/28
(上記までの追記記録は割愛)
初回公開日:2018/08/27
希代の悪法:FIT(再生エネルギー特別措置法)が施行され7年経過した中で、メガソーラー
(本稿での定義は10kW以上)に関する費用対効果を確認してみました。
結果として、メガソーラー
の普及のために、私たちは2018年度までの累計で
5.3兆円を余計な電気料金として負担してきており、普及促進と利用者負担のバランスを著しく欠いていると言わざるを得ません。
目次
1.まず、再エネ全体の発電量の実態をおさえておきます
2.FIT買取による再エネ導入の実態3.FIT太陽光(10kW以上)買取価格の推移4.実態として、今なお高額な太陽光買取価格5.利用者負担として重要なデータは賦課金の額6.まとめ:太陽光(10kW以上)の費用対効果は?7.電気料金単価の賦課金比率の推移8.第5次エネルギー基本計画に『2020年度末までの間に抜本的な見直し』と記載、総合資源エネルギー調査会等で具体案が検討中。9.(参考)2030年エネルギーミックス10.(参考)調達価格(買取価格)に関する最新資料11.関連エントリー1.まず、再エネ全体の発電量の実態をおさえておきます
電源別発電電力量構成比の経年変化

(水力を除く)再エネ電力量構成比の経年変化
(水力を除く)再生可能エネの総発電量に占める割合は、増加してきたものの、2018年度で
9.2%にとどまっている。最も多い
太陽光が6.0%、
バイオマスが2.3%、
風力が0.7%、
地熱が0.2%、にすぎない。
.2.FIT買取による再エネ導入の実態
データ出典:固定買取価格制度 情報公表用ウェブサイト(資源エネ庁)FIT買取電力量の推移

太陽光(10kW以上)が産業用、太陽光(10kW未満)が家庭用
グラフ右端の%数値は日本全体の発受電量に対する比率
一目で、
太陽光(10kW以上)が飛びぬけて多く、
493億kWhで日本全体の
4.7%を占める。
この
493億kWhの電力量は100万kW原発
7基分に相当する。
100万kW×24h×365日×80%(設備利用率)=70.1億kWh/基(本来は、間欠・変動電源と安定ベース電源を単純比較する事は間違いだが、スケール感のために。)
上記2つのグラフを重ねると大規模水力を除く再エネ発電量とその
内訳としてFIT買取量の推移になる。
太陽光、バイオマス、風力、地熱、水力(FITのみ)の発電量推移
2018年度で、
FIT水力を含む再エネ発電電力は
991億kWh(総発電量の9.5%)。FIT買取電力はその
81%で
802億kWh。
内訳を見ると、太陽光発電電力の内
79%がFIT買取(10kW以上)、
13%がFIT買取(10kW未満)。
バイオマス発電電力の内
53%がFIT買取。風力発電電力の内
94%がFIT買取。
(すでに様々な解説がなされているように)再エネのうち間欠性・変動性が最大の太陽光電源は、バックアップ、大きな地域での平準化、送電網の充実といった『システムコスト』が必要で、他国との連携線を持たない日本ではただ設置を増やすだけではすまない。
(その他、後述の費用対効果の問題もある)ちなみに、2018年9月の北海道の地震後の電力不足で、火力発電という“インフラ”に依存するメガソーラーは非常時には供給電力として役に立たない事が公知の事実として認識された。例えると、小学生が遊んでいる時に、人数に余裕がある時は幼稚園児を“みそっかす”として暖かく輪に入れてもらえる(適用されるルールもあまくする)が、人数が遊び成立ギリギリの時は参加できないといった扱いと同じ。
太陽光が全面復旧したのは、火力発電所の調整力の確保ができた14日午後(ブラックアウトから約1週間後)であった。
住宅用太陽光を自立運転に切り替え、昼間多少なりとも電気が使えたという家庭はあったらしい。
他国との比較では、日本は太陽光
設備容量:kWで米国に次いで
世界3位だが、太陽光の比率がいびつに高い。
世界の再エネの設備導入状況 2018年

日本は太陽光設備容量:
kWで
世界2位(1位:中国、2位:日本、3位:米国、4位:ドイツ、5位:イタリア)との統計資料もある。
出典はこちら以下、FIT太陽光(10kW以上)を中心にデータを見ていく。.3.FIT太陽光(10kW以上)買取価格の推移
太陽光(10kW以上)の買取価格、回避可能費用の単価

2019年度から、500kW以上は入札制に移行し、落札した価格が買取価格。
回避可能費用の単価は回避可能費用見込総額/買取電力量実績、で算出した概算値
買取価格で最大の失策は
初期のバカ高い買取価格。これが
設備認定後20年間、適用される。
これがいかに
大きな失策になっているかを示すデータが後に。
買取価格は急激に下がり、大分安くなったように見えるが、これも
効果がないことを示すデータが後に。
(『
買取価格』-『
回避可能費用の単価』)×『
買取電力量』=『
賦課金』として国民(電気利用者)に負担させている訳である。(詳細は5項に。)
(変な名前であるが)回避可能費用とは再エネ買取電力を電力会社が自社の発電所で発電したとするときに必要となる費用。(平たく言えば、電力会社自社の発電コスト)
.4.実態として、今なお高額な太陽光買取価格
データ出典:固定買取価格制度 情報公表用ウェブサイト(資源エネ庁)
設備認定時の買取価格は
20年間そのまま適用されるので、データは
累積で観た方が本質が分かる。
【累積】FIT買取電力量の実績

太陽光(10kW以上)買取電力量は1,687kWhで累積買取電力量の56%。
【累積】FIT買取金額の実績

太陽光(10kW以上)買取金額は6.6兆円で累積買取金額の63%
上記の
太陽光(10kW以上)の累積買取金額を累積買取電力量で除すと累積平均買取単価になる。単月の平均単価とともにグラフ化。
太陽光(10kW以上)の単月買取単価、累積平均買取単価
太陽光(10kW以上)に関して、
制度導入時から2019年3月末までの累積で、
- 累積買取電力量:1,687億kWh(FIT全買取量3,021kWhの56%)
- 累積買取金額:6兆6,219億円(FIT全買取金額10兆5,451億円の63%)
- 累積平均買取単価:39.3円/kWh(2019年3月単月の平均単価は37.8円/kWh)
制度開始から7年強経っているのに、累積平均買取単価が
39.3円/kWhと高止まりしているのは、初期の買取価格が高すぎた事が
取り返しのつかない失策であることを示している。
その後、買取価格を下げても、事業者が様々に回避した(「空枠取り」,「小分け」,「事後的過積載」,など)ので効果がでていないという事。
以上のように、公開データを分析しないと
失策が明確化しないのだが、買取単価毎のデータ
(例えば当初の40円/kWhでの買取電力量がどの位?)を出してくれれば一目瞭然でわかるはず。官僚はそれをオープンにしたくないのであろう。官僚その他関係者とFITについては、別エントリー
【その3】FITの制度導入や運用でやらかした人たちの記録を参照。
.5.利用者負担として重要なデータは賦課金の額
我々が電気料金で負担するのは『
買取金額』から『
回避可能費用』を差し引いた
『賦課金』。
これが
電気料金のなかで余分に支払ってきた国⺠負担そのもの。
【単年度】賦課金

2019年単年度で約
2.4兆円。
(単純に、人口1億2700万人で割った)国民一人当たり
1万9000円、その他で比較すると、
防衛予算の46%。
(電気料金の上乗せ項目と国の予算項目を比較するのは妥当でないが、スケール感のために。)(発電量との関係を見るために2019年度ではなく)2018年度の
2.4兆円のうち太陽光(10kW以上)に相当する賦課金は、約
1.6兆円、国民一人当たり1.3万円。
2018単年度の買取金額の68%が太陽光(10kW以上)なので、同じ比率を掛けた。
【累積】賦課金
2019年度までの累積で約
11.2兆円(発電量との関係を見るために2019年度ではなく)2018年度末の累積で、
8兆7,430億円、国民一人当たり6.9万円。
そのうち、太陽光(10kW以上)に掛かった累積賦課金は、
約5.3兆円、国民一人当たり4.2万円。
累積買取金額の63%が太陽光(10kW以上)なので、同じ比率を掛けた。
この費用は、下記でも明らかなように、今後も、FIT(10kW以上)買取が終了する電源が出始める2031年度までは、二次関数的に増えていき、累積額は膨大になる。
買取期間と賦課金の関係イメージ
買取期間・買取価格は太陽光(10kW以上)
賦課金はFIT対象設備の全て
電力中央研究所のPDF
固定価格買取制度(FIT)による買取総額。賦課金総額の見通し(2017年版)(電力中央研究所 朝野賢司 2017年3月)によれば、将来の
累積賦課金総額の予想は
2030年:
44兆円、国民一人当たり34万円、
2050年:
69兆円、同54万円。
.6.まとめ:太陽光(10kW以上)の費用対効果は?
以上のように、2018年度で
FIT太陽光(10kW以上)は日本の電力量の
4.7%(493億kW)を発電している。その
普及のためだけに掛かった国民負担は
- 2018単年度で約1.6兆円、国民一人当たり1.3万円
- 制度開始からの累積で約5.3兆円、国民一人当たり4.2万円。
- 今後も二次関数的に増えていく。
この費用対効果をどう見るか?人それぞれの判断だが、電力の供給安定性、国家レベルのエネルギー安全保障、電気料金負担、地球温暖化
(メガソーラーのバックアップの為に火力が稼働)などの多くの面でメリットよりもデメリットが多いと理解している。
これらは前述したように例えれば、停止している原発を7基稼働させれば全く負担しなくても良いものである。メガソーラーによる里山破壊の写真を別エントリー
【その1】太陽光バブルの実態、「太陽光エネルギー」という人災に掲載。太陽光の買取価格が世界的に観ても異常に高いことが誘引した
モラルハザードといえる。
現時点で言えることは、
ドイツ・スペイン・日本の電力消費者が太陽光バブルを金額面で負担したおかげで、世界の太陽光パネルの価格が一気に低下した訳で、その点は世界中の人々から感謝されるべき、でしょう。 パネルメーカーの育成面では、
中国企業を助けただけの結果だが。
.7.電気料金単価の賦課金比率の推移
家庭用電気料金の推移
賦課金の比率は2018年度で10.7%=2.90/27.1

データ出典:エネルギー白書2019の【第214-1-9】電気料金の推移
2015年度以前は旧一般電気事業者10社を対象。2016年度以降は全電気事業者を対象
単価は、電灯料収入を電灯販売電力量(kWh)で除したもの
産業用電気料金の推移
賦課金の比率は2018年度で15.3%=2.90/19.0

データ出典:エネルギー白書2019の【第214-1-9】電気料金の推移
2015年度以前は旧一般電気事業者10社を対象。2016年度以降は全電気事業者を対象
単価は、電力料収入を電力販売電力量(kWh)で除したもの
これら賦課金比率も今後、増大して行く。
忘れてならない事は、家庭の電気代だけではなく、このように賦課金は業務用(製造業・サービス業全て)にも掛かるので、購入する商品やサービスに掛かる分を含めた総合的な負担はかなり高いものになる。
ちなみに、毎月の電力会社等からの『検針票』の内訳欄に『再エネ発電賦課金』として記載されている金額がこれで、下式で計算されるものである。
使用量kWh×賦課金単価(2019/4以降であれば2.95円/kWh)の金額(税込)。
.8.第5次エネルギー基本計画に『2020年度末までの間に抜本的な見直し』と記載、総合資源エネルギー調査会等で具体案が検討中。
遅きに失した、としか言いようが無い。PDF エネルギー基本計画 平成30年(2018年)7月
第2章 2030年に向けた基本的な方針と政策対応
第2節 2030年に向けた政策対応
3.再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取組
(3)FIT制度の在り方(P43~44)
制度等の再生可能エネルギー源の利用の促進に関する制度について、コスト負担増や系統制約の克服、卸電力取引市場や電力システム改革に伴い整備される市場との連動等の課題を含め諸外国の状況等も参考に、再生可能エネルギー源の最大の利用の促進と国民負担の抑制を、最適な形で両立させるような施策の組合せを構築することを軸として、法律に基づき、エネルギー基本計画改定に伴い総合的に検討し、その結果に基づいて必要な措置を講じるとともに、2020年度末までの間に抜本的な見直しを行う。
迫るFIT法“抜本見直し”/再エネ自立へ新支援策を模索
電気新聞 2018/08/14
20年度末までにFIT法を抜本的に見直す方針は、同法の付則第2条に盛り込まれている。政府関係者によれば、法案の策定時、「抜本見直し」とはFIT法の廃止を意味していた。国民負担で再生可能エネを普及させるFITは、過渡的な制度という認識が背景にあった。
FIT法が廃止となっても、すでに稼働しているメガソーラーは20年間の買取が保証されている訳で、、、
【メモ】
●
「太陽光バブル」の終焉 経産省、FIT見直し 野放図な拡大で利用者負担増(中村雅和 産経ニュース 2019/8/31)
●
メガソーラーの時代の終わり(宇佐美典也 GEPR アゴラ 2018/12/11)
●
太陽光、価格引下げで「経産省VS業界」大紛糾(岡田広行 東洋経済オンライン 2018/12/2)
●
再エネ業界に大激震をもたらすFIT法告示改正案(宇佐美典也 GEPR 2018/11/13)
.9.(参考)2030年エネルギーミックス
2015/6/1、経産省は2030年の日本のあるべき電源構成(エネルギーミックス)を設定。2018/7の第5次エネルギー基本計画でもそのまま踏襲された。
幅のある比率は中央値で電力量を算出
前述のとおり、2018年度の太陽光全ての発電量は
627kWhなので、目標の
746kWhの
84%となっている。このままのペースでFIT買取電力が増えていくと2019~2020年度で目標値に到達し、その後、いびつな電力構成を形成してしまうことになる。金額負担の問題以外にも大きな課題を抱えているといえる。
.10.(参考)調達価格(買取価格)に関する最新資料
出典:第13回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(経産省 2019/4/22)の資料1 FIT制度の抜本見直しと再生可能エネルギー政策の再構築.関連エントリー
★
【その1】太陽光バブルの実態、「太陽光エネルギー」という人災★
【その2】FITの失敗をデータで確認、太陽光FITの費用対効果は?←本エントリー★
【その3】FITの制度導入や運用でやらかした人たちの記録★
【基礎資料】エネルギーや発電などの図表集、データベース【メモ】
●
再エネ推進はどのような負担をもたらしたのか(野村浩二 IEEI 2018/11/22)
●
大規模太陽光、入札制足踏み(日経新聞 2018/9/5)
●
日本の再生可能エネルギー普及を「真面目に」考える(竹内純子 IEEI 2018/3/30)
●
再エネ大量導入のための次世代NWの構築に向けての課題(宇佐美典也 GEPR 2018/3/19)
●
東日本大震災後7年目に考える原発の経済性と再エネ・ビジネスの現実(山本隆三 WEDGE Infinity 2018/3/16)
●
関電の大飯原発が再稼働 再エネ賦課金が12倍に高騰し、家庭の負担増(山本慧 ザ・リバティweb 2018/3/14)
●
考え続けている。原子力発電は本当に危険か?(松浦 晋也 日経ビジネスオンライン 2018/3/14)
●
入札失敗で改めて分かった太陽光発電導入における政策の〝不備〟 導入量は世界第2位に達するも価格は下がらず(朝野賢司 WEDGE Infinity 2018/1/30)