農薬工業会のHP
教えて!農薬Q&A そのまま食べても大丈夫?に表記についての易しい説明がありましたのでアーカイブしておきます。【食品中の化学物質の安全性】シリーズの資料編です。
人の発がん原因に関する研究
人ががんになるのはどのような要因によるのか、それについては、
1996年に発表されたハーバード大学による、「米国人のがん死亡要因に関するコホート研究」*があります。コホート(cohort)とは集団という意味で、特定地域の人(大集団)の健康状態について、生活習慣や環境状態などの要因との関係を長期間に渡り調査分析を行うものです。結果は「がん死亡の推定寄与割合」として下の図-1に示しましたが、要因としては、「喫煙」と「成人期の食事・肥満」が各々30%と見積もられ、その他は5%以下のさまざまな要因が挙げられています。一方、「塩蔵品・他の食品添加物・汚染物質」(「農薬」の表現はないがこの項目に該当)の値は1%未満で、他の要因に比べてももっとも低い寄与率でした。
* Harvard Center for Cancer Prevention: Harvard Report on Cancer Prevention, Volume 1: Causes of Human Cancer, Cancer Causes Control 1996 ;7:S3-S59. (国立がんセンターの
人のがんにかかわる要因にも引用されている文献です。)
図-1. 米国人のがん死亡要因(1996、ハーバード大学)

上記に示したハーバード大学の報告結果は、一般の消費者ががんの原因として不安を感じている内容とはかなり違っているかもしれません。このことについては、
「暮らしの手帖」(1990年)に関連する記事がありましたので紹介します。
図-2. がんの原因として考えている要因

図-2の
上段は、主婦にがんの原因として考えられるものについて
アンケートを取った結果です。また、
下段は、英国の疫学者(サー・リチャード・ドル、国立がん研究所)が米国人のがん発生原因の推定寄与割合の最良値として算出した値です(ハーバード大学と同様の結果)。
主婦ががんの原因として
挙げたトップ3の要因は、「食品添加物(43.5%)」、「農薬(24%)」、「たばこ(11.5%)」の順でした。
一方、疫学者の評価では、「ふつうの食べ物(35%)」、「たばこ(30%)」、「ウィルス(10%)」の順で、農薬はがん発生要因に入っていません。
つぶやき
この主婦アンケートは有名なそうですが、今、同じアンケートを取ったら「放射線・紫外線」の数値は跳ね上がるでしょうね。しかし、データとしては余り意味がないので、止めておいた方が良いかと。
一方で、ラドンのリスクを考慮すると上記の疫学データには少し疑問を持ちますが、WHOが国際ラドンプロジェクトを立ち上げたのは2005年なので、1996年の上記調査ではやむを得ないのかも知れませんね。そもそも、世界全体ではアメリカはラドンレベルの低い国ですし。(日本はさらに低い)
【関連エントリー】★自然放射線による被ばく、ポロニウムPo-210 、カリウムK-40、ラドンRn-222がんを引きおこす主な原因
発がん物質 | 動物実験や培養細胞を使った実験などから、がんの発生率を 増加させることがわかっている化学物質。 タバコの煙に含まれる「ベンツピレン(ベンゾピレン)」、 カビ毒の一種の「アフラトキシンB1」などがある。 |
紫外線 | 塩基のうち、隣り合うチミン(T)どうしを結合させる作用をもつ。 チミンどうしが結合するとDNAが正しく複製できなくなる。 皮膚がんの原因の一つと考えられている。 |
放射線 | DNAの2本の鎖を直接切断する作用をもつ。 また.細胞内の水分子に当たると、「水酸基ラジカル(・OH)」 という反応性の高い分子をつくりだし、水酸基ラジカルが DNAを切断することで変異を生じさせる。 |
ウイルス | 特定のウイルスが細胞に感染し、ウイルスのDNAがヒトの DNAの中に組みこまれると、がんを引きおこすことがある。 子宮頸がんを引き起こす「ヒトパピローマウイルス」、 B型肝炎の原因となり、最終的に肝細胞がんを引き起こす 「B型肝炎ウイルス」などがある。 |
出典:Newton 2019年7月号