一般的な説明は既エントリーにあります。自然界にあるカリウムの中に 1 万分の 1 くらい、不安定なカリウムK40が混ざっている。カリウムK40は不安定といっても、半減期はなんと 12 億 8 千万年。ほとんど崩壊しないということだ。
生物を学んだ人はよく知っていると思うが、カリウムはわれわれ生き物が生きていくために絶対に必要な元素だ。神経の情報伝達とか、いろいろなところでカリウムイオンが活躍している。我々の体のなかには、体重のおおよそ 0.2 % 分のカリウムがあるとされる。そして、このカリウムの量はつねにほぼ一定になるように調整されている。
体内のカリウムの量がほぼ一定で、自然界のカリウムのうちの約1万分の1が放射性のカリウムK40だということは、ぼくたちの体の中にはいつでもほぼ一定の量のカリウムK40があるということを意味する。実際、人の体内には体重 1 kg あたり約 60 BqのカリウムK40がある。ぼくらは、カリウムK40が体の中で出す放射線を受けてつねに内部被ばくしているのだ。これは、生命がこの地球の誕生して以来ずっと続いていることなのである。
以下の、いくつかのデータを元にすると、放射性カリウムと放射性セシウムが体内に定常的に存在する場合、ベクレルで測った量が等しければ、体に与える影響も大ざっぱには等しいとというのが結論である。
【関連エントリー】●セシウムの体内動態(文献による勉強)セシウムCsは実はカリウムKとよく似た性質をもった元素だ。カリウムとセシウムは、体内でほぼ同様に分布すると考えられている。
(中略)
ただし、カリウムと違ってセシウムは生命活動に使われないので、普通は体内にはほとんどない。食べ物や飲み物といっしょにセシウムを摂ると、胃腸でほとんど吸収され、血液に溶けて全身にくまなく運ばれるとされている。それから少し時間をかけて尿といっしょに体外に排出される。 これは、放射性のセシウムについても、安定なセシウムについても同じことだ。
カリウムは体内にたっぷりと存在し、濃度はほぼ一定だということを上で説明した。セシウムの場合は、濃度もきわめて低いし、一定しているわけでもない。体内にあるセシウムの量は、どれくらいセシウムを摂取するかに大きく左右されるのだ。![]()
上のグラフは、5 歳児の体内の放射性セシウムの総量の時間変化を表している。実測ではなく、ICRP の使っているモデルによって計算した理論的なグラフだ。ここでは、この子供が 100 日目から 600 日目のあいだ(グラフではピンクで示した領域)、一日に 10 Bqずつの放射性セシウムをずっと摂り続け、その後、放射性セシウムの摂取をやめたということを想定している。
体内のセシウムの量は、最初はゼロだが、摂取を始めると急激に増えていき、ある一定値(この場合は約 300Bq)に達したところで変化しなくなる(この子供は途中で摂取をやめているが、同じ割合で摂取を続ければ何年間も 300Bqが維持される)。この「一定値」は、日常的にどれくらいセシウムを摂取するかと、セシウムがどれくらい排出されるかのバランスで決まってくる。「平衡量」と呼ぶことにしよう。もちろん、摂取をやめれば、体内のセシウムの量はどんどんと減りゼロに近づいていく。
注意
マスコミの報道(特に朝日新聞の「プロメテウスの罠」)などで「人が摂取した放射性セシウムは、全身に均等に行き渡るのでなく、心臓や甲状腺など特定の臓器に蓄積されることがわかった」というバンダジェフスキーの研究について読んで心配している人もいると思う。バンダジェフスキーという人は、ベラルーシの政府に不当に弾圧されて逮捕されたりしたものの、がんばって論文を出版したことで知られている。弾圧に負けす自説を貫く立派な人なのだろう。ただし、立派な人だとしても、それで研究の内容が正しいということになるわけではないから注意が必要だ。
実際、セシウムが臓器に集中するというバンダジェフスキーの論文はデータの扱いなどがかなり杜撰(ずさん)で、研究としての信頼性は低いと思われる。ぼく自身は医学の専門家ではないが、ぼくが調べてみた範囲でも、動物実験を含む多くの研究では、セシウムは特定の臓器には蓄積されないことを示しているようである。
K40の実効線量係数はCs134の3分の1程度だ。ただし、この数字をそのまま(我々の考えている状況に)使ってはいけない。実効線量係数は、一定量の放射性物質を一気に摂取したことを想定し、それが、摂取してから後の(排出される、あるいは、減衰するまでの)長い期間にどれだけの被ばくを引き起こすかを示す数字である。
同量の放射性物質が単位時間あたりに体に及ぼす影響を比べるには、実効線量係数を半減期(実効半減期だが、この場合は生物学的半減期とみなしてよい)で割った量を比較する必要がある。
実効線量をそれぞれの生物学的半減期で割れば、
K40: 6.2 ÷ 30 ≒ 0.21、 Cs134: 19 ÷ 110 ≒ 0.17、 Cs137: 13 ÷ 110 ≒ 0.12
となる。
K40の及ぼす害は、Cs134とほぼ等しい(細かく見ればやや大きい)ということになる。
つまり、ICRP の実効線量の表からは、体内の定常的なK40の及ぼす影響は、(ベクレルで測って同量の)定常的なCs134の及ぼす影響とほぼ等しいと考えてよいという結論が得られる。
【ベータ線のエネルギーの平均】
一回の崩壊で放出されるβ線のエネルギーの平均値は、K40が飛び抜けて高いことがわかる。
【ガンマ線のエネルギーの平均】
一回の崩壊で放出されるγ線のエネルギーの平均値は、K40が特に小さい。
【総合すると・・】
β線についてはK40 が高く、γ線についてCs134が高い。内部被ばくの場合、β線はほぼ全てが寄与し、γ線は(体の外に出て行くので)半分くらいが寄与する。そういった効果を合わせると、上で実効線量係数から導いた「内部被ばくへの寄与はK40がもっとも大きい」という結論と整合するはずだ。
平均値ではなく、具体的なエネルギー分布を見れば、もちろん、K40、Cs134、Cs137 の出す放射線は微妙に異なる。ただ、その微妙な相違が生体への影響を大きく変えると考える理由はないように思う。
飲食によって人体中のカリウムK40の量は増加することになるが、一方で同等の量が排出されるため、常に一定に保たれている。 K40は、人体全身中に約4,000Bq存在している(日本人男性体重65kgの人)。 年間の被ばく線量は、0.18mSv/年である。 |
ci.nii.ac.jp/els/1100034551… fig.5 MIRD法では約1MeVのγ線源が体内に一様に分布している場合、そこから放出されるγ線のエネルギーの約30%が体内で吸収されます。理解していないことを他人に説明しない方が・・・。@leaf_parsley
— MAKIRINTAROさん (@MAKIRIN1230) 6月 16, 2012
≪ 【後編】放射性セシウムの影響をカリウムK40を指標として評価する。(食品の新基準も評価) | Home | (リンク)【前篇】放射性セシウムと放射性カリウムの人体影響は同じレベル(内部被ばく) ≫
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管理人:icchou
非常勤講師
大体あっています。
オーダー的には
Cs134:1BqとK40:10 Bqはモル比では10の10乗の違い、
Cs137:1BqとK40:10 Bqはモル比では10の8乗の違い、
セシウム1Bq(Cs134:.0.5 Bq+Cs137:.0.5 Bq)とK40:10 Bqはモル比では10の9乗の違い、
となります。(さらに、カリウム総量はK40の10の4乗ですが)
オリジナリティーのない2次加工記事が多いですが、授業の参考にしていただけるなど光栄です。遠慮なくどうぞ。もし、リクエストなどありましたら出来る範囲であれば対応も。
私のバックグラウンドはチョット恥ずかしいので、bloomさんのブログにシークレットで入れておきます。では。