140字で解説するノーベル化学賞/我々生物のDNAには紫外線などにより常に傷が入る。このエラーの蓄積が、がんを引き起こすことも。傷の種類によってミスマッチ修復、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復が働きDNAを修復。これらの修復機構を発見した3名に、今回のノーベル化学賞が贈られた。
— クマムシ博士 (@horikawad) 2015, 10月 7
初回公開日:2011/10/24(既エントリーより)
放射線は細胞のDNAを傷つける。
(1)確定的影響(高い放射線の場合)
ある線量(しきい値)を超えた場合に、被爆後直ちに現れる影響・急性障害。
造血能の低下(リンパ球の減少)、皮膚の障害、脱毛、胃腸管の障害、神経障害、不妊などがあるが、それぞれのしきい値は障害の種類によって異なる。
(2)確率的影響(低い放射線の場合)
がん・白血病や遺伝性影響といった確率的影響(数年後に100人中がんになる人が何人増える、といった影響)も100 mSv以上では、線量とともにリスクが上昇することが判っている。確率的影響のなかで最も早く現れるのは白血病である。
しかし、100 mSv以下の低線量被ばくでは、確率的影響がふえる証拠は疫学的・統計的に得られていない。
放射線がDNAを傷つける仕組みは自然に発生している傷と同様の仕組みであり、現状の福島の方々の被ばく線量レベルでは放射線によるDNA損傷の頻度は自然の傷より、はるかに少ないものである。
それらの傷は、“人間が進化の過程で獲得してきた身を守るシステム”によって、何重にも直されて行く。
具体的には、活性酸素によるDNA損傷を修復するシステム、変異細胞をアポトーシスに導くシステム、免疫システム、である。
原子力機構・先端基礎研究センター 放射能とDNA損傷
放射線によるDNAの損傷は、DNAが直接イオン化することにより生じる過程(直接効果)と、DNAの周囲にある水分子などがイオン化しその結果生じたOHラジカルなどが間接的にDNAを攻撃することで損傷が生じる過程(間接過程)の二つに大別され、その比はおおよそ 直接:間接 = 1:3 (注1)
とされています。間接効果が拡散性ラジカルのランダムヒットにより個々の損傷が比較的孤立してるため容易に修復され易いと考えられますが、直接効果の場合損傷が近接して生じる可能性が高くなります。放射線のイオン化密度*が高くなるほどより密集して損傷が生じ(クラスターDNA損傷(注2))修復タンパク質の機能を妨げられると言われています。
* 検索用メモ:LET(線エネルギー付与)
http://www.iips.co.jp/rah/kangae/lowdose/ganni_s.htm
放射線による致命的な傷はDNAの2本鎖の切断で、これは、「非相同末端結合修復」と「組換え修復」で修復されます。前者は短時間で修復作業が完了しますが、2本鎖切断の一部しか修復しません。残りは組換え修復の作業ですが、この修復作業には時間がかかります。したがって、放射線による傷が少しずつできるときは、最初の傷が組換え修復で修復が完了してから次の傷ができれば、この傷も修復が完了するでしょう。しかし、瞬時の照射では、修復できない傷がたくさん残存します。ガンマ線の瞬時の照射では奇形が多発し、少しずつの照射では奇形リスクがゼロになったのは、2本鎖切断の修復効率が少しずつの照射では向上するからだと考えられます。図1に組換え修復の模型を示します。(ここで述べるマウス実験の原著:Kato et al, Inc J Radiat Biol 77,13,2001)
(引用資料の原著は近藤宗平:「人は放射線になぜ弱いか」講談社ブルーバックス(1998)に譲る)
朝日新聞デジタル版2012/6/4有料記事の紹介ブログ「山田ババでございます」から
長崎大大学院医歯薬学総合研究科の鈴木啓司准教授(放射線災害医療学)らが6/3、第53回原子爆弾後障害研究会で発表。
ヒト細胞500個に100mSvを20分間あてて、時間ごとの回復度を観察。放射線でDNAの二重鎖が切れる傷が、細胞核1個あたり平均4つできて、傷の数は1時間後に最大となったが、傷は6時間後に75%、12時間後に25%弱まで減り、24時間後には被曝前に戻った。
一方、250mSv以上の放射線をあてると、24時間経ってもDNAの傷は被曝前より多いままだった。
(関連情報)
DNA損傷は線量に比例 年齢かかわらず 100ミリシーベルト以下も
高線量と違い随時修復 発がんメカニズムに新説
がん発症 定説に疑問 国家レベルの研究必要
*22
●「toshi_tomieのブログ」2012/2/9 放射線は得体の知れない特別な障害を起こす、という誤解(2)ーー細胞は、DNA損傷を修復する能力がある、を示す実験データ
(1) 絶対温度4度(摂氏-269度)での実験
(2) 線量率が低いと、遺伝子の突然変異の頻度が減る(W.L.Russell等の急性曝露と緩慢曝露の実験)
http://www.iips.co.jp/rah/kangae/lowdose/ganni_s.htm
長い間、DNAの2本鎖切断は、放射線でしかできない傷であるとして、これが放射線が特別にこわい原因であると信じられていました。しかし、最近、組換え修復のときに働くRad51遺伝子(図1cの説明参照)を欠損したマウスの卵は、受精後数日で全部死亡することが発見されました。この原因は、分裂細胞にはDNAの2本鎖切断が自然に多発し、Rad51遺伝子欠損の細胞では組換え修復不全となり、細胞が全部死んでしまうからです。すなわち、放射線でできるDNAの傷は、全て自然にも発生しているのです。したがって、放射線は独特のDNA損傷をおこすものとして、特別にこわがらねばならない科学的根拠はなくなりました。では、どの程度の被ばくまでなら、放射線は安全でしょうか? 表1にこの疑問に対する答えの資料を用意しました。![]()
表1 DNAの損傷の種類と量:自然によるものとX線やガンマ線によるものの比較
DNA2本鎖切断は、自然に毎日細胞1個あたりに約10個発生していると推定されます。放射線を自然放射線の平均の強さの365倍受けるとすると、毎日1ミリシーベルトになり、この程度の被ばくによる2本鎖切断は表1から毎日0.03個で、自然の傷の0.3%です。この程度なら、自然の傷の治癒機能の範囲内で私たちの身体はびくともしないでしょう。
(引用資料の原著は近藤宗平:「人は放射線になぜ弱いか」講談社ブルーバックス(1998)に譲る)
分子レベル:「放射線障害への細胞応答の放射線生物学的検討」 林正信教授
活性酸素は細胞のミトコンドリアでのエネルギー産生の中間物質として多量に産生されており、その5~10%がミトコンドリアから漏出して細胞成分と反応し、放射線と関係なく種々のDNA損傷が、細胞当たり1日数万個生成していると推定されている。
(専門家が答える 暮らしの放射線Q&A 2013/1/23)活性酸素によるDNA損傷について教えてください。
自然発生(活性酸素由来)と放射線由来によるDNA損傷は、どちらも直接的には活性酸素によるものですが、活性酸素の空間的な分布の違いによって、質的な違い、つまりDNA損傷がクラスター化するかどうかが異なります。この損傷の生成は線量や線量率に依存しますが、線量が低くなると検出することが困難であるため、低線量での実験的な報告はほとんどありません。
ついに解明 ストレスがDNA損傷を引き起こす理由/デューク大学
p53は腫瘍抑制タンパク質であり、ゲノム異常を予防する「ゲノムの守護者」とみなされている。
「この研究から慢性ストレスがp53値の低下を長期化させることがわかりました」と、Makoto Hara医学博士は述べた。「これこそが、この慢性ストレスを与えたマウスで認められた染色体異常の理由であると、われわれは仮説を立てました」。
低線量放射線の正しい理解に向けて
(財)電力中央研究所の資料だが、ブログ主が知らない固有名詞が多く難しい。言及の範囲は宇野賀津子さんの本文とほぼ同じ範囲。その中から、ごく一部のみ引用。
がん抑制遺伝子p53は、DNA が放射線によって損傷したという信号を受け取ると、p21waf1 と呼ばれる遺伝子を介して細胞が分裂する速度を遅らせ、修復のために充分な時間を確保する。また、GADD と呼ばれる遺伝子を介してDNA の修復能を活性化する。一方ではBAXと呼ばれる遺伝子を介して細胞を自爆(アポトーシス)に導き、これにより充分な修復を受けることのできなかった細胞を排除する。p53は、これらの3つの作用を司る重要な遺伝子と見られている。
「六号通り診療所所長のブログ」2012/10/16 酸化ストレスマーカー「8-OHdG」の話
実際にはこのマーカーは、癌は勿論のこと慢性肝炎でも糖尿病でも心不全でもアルツハイマー病でも上がり、心筋梗塞においては急性期に上昇してそれから低下します。喫煙や飲酒でも上昇し実際に精神的なストレスでも上昇するという報告もあります。更には激しい運動をすればその翌日には上がり、魚類食品にはこの代謝物が含まれているのでそうした食品を多く摂った後にも上がります。
つまり、実際にはあまり特異性がない訳で、現時点では、この物質の数値のみで何か意味のあることは言い難いと思います。
最近この数値を放射線被ばくの影響として測定することが、一部の医療機関で行なわれていますが、勿論放射線によるDNA損傷においてもこの測定値は上昇すると思いますが、当然ストレスでも上昇しますから、その測定には左程の特異的な意味があるとは考え難く、皆さんも無用な出費はしないように慎重にお考え頂ければと思います。
「日本老化制御研究所」酸化ストレスマーカー 8-OHdGとは
8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG / 8-oxo-dG:以下8-OHdG)はDNAを構成する塩基の一つデオキシグアノシン:deoxyguanosine(dG)*の8位が ヒドロキシル化された 構造を持つDNA酸化損傷マーカーである。dGはDNAの4種類の塩基のうち最も酸化還元電位が低いため、活性酸素による酸化を受けやすい。 このためdGの主要な酸化生成物である8-OHdGは活性酸素による生体への影響を鋭敏に反映する。現在最も広く用いられている酸化ストレスマーカーの 一つであり、動物種を問わず尿を使って非侵襲的に生体内酸化ストレスを評価できるほか、血清、末梢血白血球、臓器組織など多様なサンプルを 対象に測定できる。
染色体DNA上に形成された8-OHdGは修復酵素の作用により染色体DNAより切り出され細胞外に放出、腎臓を経て尿中に排出される。
酸化ストレスの上昇は分子レベルの生体酸化損傷を増加させ、様々な疾病や老化亢進に つながると考えられており、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病をはじめとして数多くの疾病において酸化ストレスが重要な役割を 果たしていることが明らかにされつつある。生体内の酸化ストレスを正確に評価し、酸化ストレス低減のための対策を施すことは、 病態把握、未病診断、病気予防、老化制御に役立つと期待されている。
* グアニンとデオキシリボースがグリコシド結合してできたヌクレオシド (詳細はこちらの図を参照ください)
(関連文献)http://plaza.umin.ac.jp/e-jabs/32/32.297.pdf
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