ポストさんてん日記

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アナフィラキシーとは

[ 2021/03/15 (月) ]
新型コロナウイルスワクチンの関連でアナフィラキシーという言葉を、よく聞くようになりました。
弊ブログの過去記事でもこの言葉がたまに出てきますが、この機会に基本的なところを勉強しておきます。
出典は、PDFアナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会 2014年11月1日発行)ですが、堀向健太先生のやさしい解説『新型コロナワクチンで17人のアナフィラキシー』、リスクの高いワクチンなのですか?(Yahoo個人2021/3/10)も有用でした。

目次

1.豆知識:アレルギー発見の経緯
2.予備知識:ポリエチレングリコール(PEG)とは
3.アナフィラキシーの定義
4.3 項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断
5.アナフィラキシーの疫学
6.アナフィラキシーの機序
7.アナフィラキシーの誘因
8.アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会 2014年11月1日発行)の目次
9.関連エントリー
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1.豆知識:アレルギー発見の経緯
ここは既エントリー【基礎04】アレルギーとは~免疫の副作用、発症メカニズム、治療の原理などからの転記

20世紀初頭、世界的なリゾート地であるモナコでは海水浴客が“電気くらげ”に刺される事故が相次ぎ、問題となっていました。依頼を受けた二人のフランス人研究者は、くらげに触れた際に触手から注入される毒素が痛みを伴う水ぶくれの原因と考え、毒素に対するワクチンの開発を試みました。
彼らは、くらげから毒素を分離し中和抗体ができることを期待して犬に毒素を注射する、という実験をしたところ、一回目の注射の際には何もおこらなかったのに2回目に注射すると抗体をつくるどころかショック症状をおこしてバタバタと倒れてしまう犬がいるのに気づいたのです。
本来、ワクチン接種は毒素、病原体から体を防御するために行うのに、防御とは正反対の結果が起こってしまったということで、この現象はアナフィラキシー(ギリシャ語でana:~から逃れる、phylaxis:防御、を組み合わせた造語)と名付けられました。

やがて、同じような出来事が次々と見つかってきましたが、いずれにも共通することは特定の異物が体内に入ってきたとき初回には何もおこらないのに、同じ異物が二回目以降入ってきたときに明らかに反応性が異なる点でした。
この点に注目したドイツの研究者が、このような現象をアレルギー(またもギリシャ語でallos:別の、ergon:作用、を組み合わせた造語)と呼ぶよう提唱しました。

その後、アレルギーを起こしている動物の血清を他の動物に注射することにより同じ抗原によるアレルギー症状を伝えられること、つまり血清中にアレルギー症状を引き起こす物質が含まれていることが明らかとなりました。
この物質は、当初、レアギンと呼ばれていましたが、1966年日本人免疫学者である石坂公成先生によって免疫グロブリンの一種であることがつきとめられ、IgEと名前がつけられました。

【今回補足】
6項に記載のように『薬剤や造影剤では、 IgEが関与しない免疫学的機序によっても、アナフィラキシーの誘因となりうる。』
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2.予備知識:ポリエチレングリコール(PEG)とは

ファイザー社の新型コロナワクチンはmRNAワクチンですが、このワクチンにはPEG(ポリエチレングリコール)という成分が含まれており、このPEGがmRNAワクチンのアナフィラキシーの原因の一つと考えられています。
新型コロナのmRNAワクチンに対してアナフィラキシーを起こすのは、なぜかこれまでのところ圧倒的に女性が多いことが知られていますが、その理由としてPEGが界面活性剤、乳化剤、保湿剤などとして化粧品に含まれることが可能性として挙げられています。
PEGは下剤や整腸剤の有効成分であるほか、錠剤の表面コーティング、潤滑剤、超音波ジェル、軟膏、座薬、デポ剤、骨セメント、臓器保存剤などの安定剤としても使用されていることから、医療従事者ではよりPEGに感作されている人の割合が高い可能性はあるかもしれません。


(新型コロナのmRNAワクチンは不安定ですぐに分解してしまう物質であるmRNAを脂質ナノ粒子に入れて投与するものだが、)
その脂質として選ばれたのが、『ポリエチレングリコール:PEG』でした。PEGは本来、リスクの高い物質ではありません。PEGは、医薬品や家庭でつかわれる製品に広く使用されている物質です。たとえば、下剤の成分でもありますし、抗菌薬などの錠剤の約30%に含まれていて、注射の薬品でも使用されています。化粧品の粘度をあげるために使われたりもします。
それだけ広く使用されているのは、安全性が高いとわかっているからです。しかし、どんなに安全性が高いといっても、多くのひとで安全な食べ物でもアレルギーがゼロではないように、100%アレルギーを起こさない物質はまずありません。

【関連エントリー】
【新型コロナワクチン01】世界初の使用許可を取得したmRNAワクチン

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3.アナフィラキシーの定義

アナフィラキシーとは・・・
アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応

アナフィラキシーショックとは・・・
アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合

アナフィラキシーは心配な症状ではありますが、『アナフィラキシーショック』とは必ずしも言えません。速やかな対処で回復することが多いということです。
たとえば、じんましんがたくさん出て、同時に呼吸が苦しくなった(=2つの臓器に症状があり、全身に広がった)場合はアナフィラキシーですが、血圧が下がったり意識状態がしっかりしていればアナフィラキシーショックではないということになります。
もし、『アナフィラキシー』を、『ショック症状をおこしている』と考えておられる方がいらっしゃるとすれば、必ずしもそうではないということです。


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4.3 項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断

①皮膚症状(全身の発疹、瘙痒ソウヨウまたは紅潮)、または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹シュチョウなど)のいずれかが存在し、急速に(数分~数時間以内)発現する症状で、かつa、bの少なくとも1つを伴う。
a.pngさらに、少なくとも
右の1つを伴う
b.pngc.png
皮膚・粘膜症状

a 呼吸器症状
呼吸器困難、気道狭窄、
喘鳴ゼンメイ、低酸素血症
b 循環器症状
血圧低下、意識障害


ひとつ目が、『アレルギーの原因になるものが体に入ったかどうか分からなくても、まず1)皮ふの症状があって、それ以外の、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のどれかが、急速に(数分~数時間以内)に現れる』


②一般的にアレルゲンとなりうるものへの暴露の後、急速に(数分~数時間以内)発現する以下の症状のうち、 2つ以上を伴う
a.pngb.pngc.pngd.png
a 皮膚・粘膜症状
全身の発疹、瘙痒、
紅潮、浮腫
b 呼吸器症状
呼吸器困難、気道狭窄、
喘鳴ゼンメイ、低酸素血症
c 循環器症状
血圧低下、意識障害

d 持続する消化器
症状

腹部疝痛、嘔吐

『(アレルゲンになる可能性のある)新型コロナワクチンを接種したあとに、1)皮ふ症状、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のうち、どれかふたつの症状が急速に(数分~数時間以内)に現れる』


③当該患者におけるアレルゲンへの暴露後の急速な(数分~数時間以内)血圧低下
c.png収縮期血圧低下の定義:平常時血圧の70%未満または下記

生後1ヵ月~11か月<70mmHg
1~10歳     <70mmHg+(2×年齢)
11歳~成人   <90mmHg
血圧低下

特に、アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合を『アナフィラキシーショック』といいます。この場合は、必ずしも皮ふの症状などは明らかでなくても診断されます。


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5.アナフィラキシーの疫学

  • 日本において、アナフィラキシーの既往を有する児童生徒の割合は、小学生0.6 %、中学生0.4 %、高校生0.3 %。
  • アメリカでは1.6%(95% CI:0.8 -2.4%)、ヨーロッパの10ヵ国では0.3%(95% CI:0.1 -0.5%)と報告されている。
  • 食物アレルギーによるアナフィラキシーにより死に至る確率は患者10 万人当たり1.35〜2.71 人、0〜19 歳では3.25 人。

アレルギー疾患罹患者(有症者)数
アレルギー疾患罹患者(有症者)数

アナフィラキシーショックによる死亡数
アナフィラキシーショックによる死亡数
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6.アナフィラキシーの機序

  • アナフィラキシーの多くはIgEが関与する免疫学的機序により発生し、最も多くみられる誘因は食物刺咬昆虫(ハチ、蟻)の毒薬剤
  • 薬剤は、 IgEが関与しない免疫学的機序、およびマスト細胞を直接活性化することによっても、アナフィラキシーの誘因となりうる。
  • 造影剤は、 IgEが関与する機序と関与しない機序の両者により、アナフィラキシーの誘因となりうる。
アナフィラキシーの発生機序と誘因
*複数の機序によりアナフィラキシーの誘因となる
アナフィラキシーの発生機序と誘因※ 2 NSAIDs(nonsteroidalanti-inflammatory drugs):非ステロイド性抗炎症薬
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7.アナフィラキシーの誘因

医薬品(造影剤・麻酔薬含む)
抗菌薬
  • βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)が最多であり、ニューキノロン系抗菌薬の症例も報告されている。
  • 投与前の問診が重要であり、抗菌薬によるアナフィラキシーの発生を確実に予知できる方法はない。
解熱鎮痛薬(NSAIDs 等)
  • アスピリン等のNSAIDs のうち、1 剤だけで起きる場合と、複数薬剤のいずれでも起きる場合がある。
  • IgEは通常関与しないが、1 剤だけで起きる事例では関与しうる。
抗腫瘍薬
  • 白金製剤やタキサン系(特に溶解剤としてポリオキシエチレンヒマシ油を含む薬剤)などの抗腫瘍薬を原因とするアナフィラキシーの報告は比較的多い。
局所麻酔薬
  • 自覚症状を訴える患者は多いが、アレルギー機序は稀で、心理要因または添加されている保存剤や血管収縮薬が原因であることが多い。
筋弛緩薬
  • 全身麻酔中に発症したアナフィラキシーの原因としては最も多い(50~70%)。
造影剤
  • 数千件に1 件の率でアナフィラキシーが起きるといわれる。近年用いられている非イオン性、低浸透圧造影剤の重症の副作用の割合は0.04%とされる。
  • IgEは通常関与しないが、一部の例では関与しうる。
  • X 線造影剤でもMRI 造影剤でも、アナフィラキシー重症化因子として気管支喘息が挙げられており、特に必要な場合にのみ慎重に投与するのが原則となっている。
生物学的製剤
  • 投与直後または投与の数時間後、薬剤によっては24 時間以降にアナフィラキシーの発生が報告されている。多くは機序不明で、初回投与でも複数回投与後でも起こりうる。
アレルゲン免疫療法
  • 皮下注射法の場合には、特に増量過程でアナフィラキシーが生じる可能性があり、100 万注射機会に1 回重篤な全身反応が生じ、2,300 万注射機会に1 回の頻度で死亡例がある。
  • 維持療法においても投与量の誤り、または注射間隔の極端な延長などによって、アナフィラキシーが生じる可能性は稀ではない。
  • 舌下免疫療法の場合はその頻度は低く、死亡例はないものの、アナフィラキシーを生じた症例が1 億回の投与に1 回程度の頻度で報告されている。
後略

手術関連


ラテックス
  • ラテックスに含まれるタンパク質に対するIgE抗体を保有する者に起こる即時型反応である。
  • 即時型のアレルギー反応は通常、天然ゴム製品に曝露されてから数分以内に始まり、様々な症状を呈する。
  • ハイリスクグループは医療従事者、アトピー体質、医療処置を繰り返し実施している患者(特に二分脊椎患者)、天然ゴム製手袋の使用頻度が高い職業に従事する者である。
  • ラテックスアレルギーの30〜50%は、クリやバナナ、アボカド、キウイフルーツ等の食品やその加工品を摂取した際に、アナフィラキシー、喘息、蕁麻疹、口腔アレルギー症候群などの即時型アレルギー反応を起こすことがある。この現象は特に「ラテックス─フルーツ症候群」と呼ばれる。ラテックス─フルーツ症候群は、果物や野菜に含まれるアレルゲンとラテックスとの交差反応性に起因している。

昆虫
  • 人口の0.36%がハチ毒過敏症状を呈する(栃木県8 万人の調査)。
  • 林野庁営林局(現森林管理局)の職員の67.5%にハチ刺傷歴があり、ショック症状は11.8%と報告されている(全国40,382 名の調査)。
  • 林業・木材製造業従事者の40%、電気工事従事者の30%がハチ毒特異的IgE抗体陽性である(栃木県および福島県1,718 名の調査)。
  • ハチ刺傷はアシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多い。
  • 短期間に2 回刺傷されるとアナフィラキシーを生じやすい。
  • ハチ毒アレルギーに対するアレルゲン免疫療法が有効であるが、日本では保険適応がない。
後略

食物
  • 欧米ではピーナッツ、ナッツ類が多く、日本では鶏卵乳製品小麦ソバピーナッツが多い。
  • 食物によるアナフィラキシーは自宅で発生する頻度が最も高い。
  • ほとんどが特異的IgE抗体が関与する即時型反応で、典型例では摂取後数分以内に起こるが、30 分以上経って症状を呈する場合もある。
  • 食物アレルギーの制限解除が進んで少量の摂取が可能(経口免疫療法の経過中も含む)となった場合でも、感冒や疲労、運動、入浴などに伴って誘発される場合がある。

ショック症状を誘発した原因食物
ショック症状を誘発した原因食物


食物依存性運動誘発アナフィラキシー(Food-dependent exercise-induced anaphylaxis;FDEIA)
  • 学童、生徒におけるFDEIA の有病率は0.0085%(約12,000 人に1 人)の頻度で、男児に多い。
  • 原因食物は小麦製品甲殻類が多い。
  • 原因食物摂取から4 時間以内の運動で発症することが多い。
  • NSAIDsや食品添加物(サリチル酸化合物)、アルコール飲料や入浴で症状が増強する。
  • 小麦加水分解物含有石鹸「茶のしずく」を使用したことにより発症する小麦アレルギー(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)の健康被害が多数報告されている。
  • 原因食物を摂取しなければ運動は可能である(必ずしも運動を全面禁止にする必要はない)。

その他:全身性マスト(肥満)細胞症

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8.PDFアナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会 2014年11月1日発行)の目次
目次のみの引用です。太字が今回引用した項目です。

総論
 1.1.アナフィラキシーの定義
 1.2.アナフィラキシーの診断基準
 2.アナフィラキシーの鑑別診断
 3.アナフィラキシーの疫学
 4.アナフィラキシーの機序
 5.アナフィラキシーの誘因
 6.アナフィラキシーの危険因子、増悪因子
 7.アナフィラキシーの症状
 8.アナフィラキシーの重症度評価
治療
 1.初期対応
 2.アドレナリンの適応
 3.薬物治療:第一選択薬(アドレナリン)
 4.薬物治療:第二選択薬(アドレナリン以外)
 5.症状別の治療:呼吸促迫、低血圧に対する治療
 6.重症例に対する治療
 7.アドレナリン自己注射薬(エピペン®)の使い方および指導
 8.アドレナリン自己注射薬(エピペン®)の概要:効果と副作用データ
 9.再発予防/ 誘因の回避
予防と管理
 1.アレルゲン免疫療法
 2.職業性アナフィラキシー
 3.保育所(園)・幼稚園・学校などでの社会的対応
 4.生活管理指導表(アレルギー疾患用)

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9.関連エントリー

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[ 2021/03/15(月) ] カテゴリ: 生物・医学の基礎 | CM(0)
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