ポストさんてん日記

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インフルエンザウイルスに関する基礎知識

[ 2020/12/09 (水) ]
あちこちのエントリーに分散していた情報を集めて整理するとともに、追補してまとめてみました。

目次

1.インフルエンザウイルスの姿
2.インフルエンザウイルスの種類
 ウイルス表面のスパイク
 インフルエンザウイルスの種類と宿主
 何型が流行?
3.A 型ウイルスの連続変異と不連続変異
 連続変異:同じ亜型でも毎年少しずつ変化する
 不連続変異:時に突然、フルモデルチェンジして新型が発生
4.新型インフルエンザ
 ブタを経由した新型インフルエンザウイルスの誕生
 ブタを介さずトリ型ウイルスが直接人間に感染
5.インフルエンザウイルスの増殖過程
6.抗インフルエンザウイルス薬
 シンメトレル、リレンザ、タミフル、ラピアクタ、イナビル
 アビガン
 ゾフルーザ 
7.関連エントリー

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1.インフルエンザウイルスの姿

概略図
インフルエンザウイルスの構造01
出典:インフルエンザ 感染と予防(PRO SARAYA)

直径が100nm(1万分の1mm)の球形で、RNAの周りにキャプシド(カプシド、capsid)と呼ばれるタンパク質の殻で覆われ、さらに、エンベロープ(envelope)と呼ばれる脂質の膜に覆われている。エンベロープにはスパイクというタンパク質の突起がついている。 

詳しい図
インフルエンザウイルスの構造02
出典:インフルエンザウイルスの基礎知識(北海道大学大学院獣医学研究院・獣医学部)

スパイクという糖タンパク質は、A型インフルエンザウイルス場合は、ヘマグルチニン:HAノイラミニダーゼ:NAの2種類があり、ウイルスが感染を起こすための大きな役割を果たしている。M2タンパク質は膜を貫通しイオンチャネルの役割を担っている。
インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に属する分節状の一本鎖マイナス鎖RNAを遺伝子とするウイルス。

ウイルスの構造と主なウイルスと疾患
出典:こどものかぜと免疫(太田東こども&おとな診療所)

本項よりさらに基礎的は説明が、別エントリー【基礎01-1】ウイルス、ワクチン、抗ウイルス薬にあります。
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2.インフルエンザウイルスの種類

ウイルス表面のスパイク
ウイルスの表面には微細なタンパク質の突起物:スパイクが沢山あり、これで宿主の細胞にくっついて中に入り込む。スパイクはヘマグルチニン:HAノイラミニダーゼ:NAという物質の組み合わせ。
A型のHヘマグルチニンとNノイラミニダーゼ
  • ヘマグルチニン:HAの役割
    気道上皮細胞表面の糖鎖(シアル酸を末端に持つ糖タンパク質)に結合しウイルスが細胞内へ侵入する。
  • ノイラミニダーゼ:NAの役割
    結合した糖鎖の中の特定の構造を切断することで、ウイルスが細胞外に放出され感染が進行する。

インフルエンザウイルスの種類と宿主
A型,B型,C型,D型,がある。ヒトで広く流行するのはA型B型
  • A型はヒト以外にも、ブタ,ウマ,ニワトリをはじめとした家畜となる鳥など多くの動物に感染する。
    HAとNAの抗原性の違いによってHAには16の亜型、NAには9の亜型が知られている。16×9=144種類の亜型
  • B型はヒトだけに感染し、亜型は存在しないがHAの抗原性からビクトリア系統と山形系統に分類される。
  • C型は主にヒトに感染して、かぜ様の軽い上気道炎を起こすが大流行は起こさない。亜型は存在しない。
  • D型はウシ,ブタ,ヤギ,ラクダ,ヒツジに感染するが、家畜に対する病原性(病気を引き起こす性質又はその程度)と伝播性(感染の広がりやすさ)、ヒトへの感染性については不明。亜型は存在しない。(D型についてはまだ分かっていないことが多い)
インフルエンザ型の種類

インフルエンザの種類と宿主の関係
インフルエンザの種類と宿主の関係
出典:鳥インフルエンザ ヒトへの感染は起こるのか?(忽那賢志Yahoo個人2020/12/19)

【参考】
インフルエンザウイルスとは?(シオノギ製薬)
インフルエンザウイルスの基礎知識(北海道大学大学院獣医学研究院・獣医学部)

何型が流行?
週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2016/17~2020/21シーズンによると、
2018年第36週~2021年では、A型(A/H1pdm09:pandemicの略で2009年(09)に新型インフルとして流行し季節性インフルのひとつとして定着したもの)が最も多く、次がA型(A/H3)。
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3.A 型ウイルスの連続変異と不連続変異

連続変異:同じ亜型でも毎年少しずつ変化する
インフルエンザウイルスは変異し易い性質を持っている(HA, NA 上のアミノ酸変異により抗原性が少しずつ変化する)。一度、免疫を獲得したとしても、変異したウイルスには防御効果が薄れてしまう。インフルエンザウイルスは少しずつ変異しながら免疫システムをかいくぐり感染を繰り返す。しかし、この変異は「小変異(連続変異)」と呼ばれ、これにより誕生したウイルスを新型インフルエンザウイルスとは言わない。新型インフルエンザウイルスは、これとは全く異なる仕組みで出現するウイルス。

不連続変異:時に突然、フルモデルチェンジして新型が発生
これまでに流行していたウイルスとは異なるHA型またはNA型を持つウイルスがヒト世界に出現することを不連続変異(大変異,抗原シフト)とよぶ。
この新亜型ウイルスの抗原性は大きく異なり、人類の多くが免疫を欠くため、世界的大流行(パンデミックpandemic)が引き起こされる。
タイプ俗称
1918年H1N1スペイン風邪
1957年H2N2アジア風邪
1968年H3N2香港風邪
1977年H1N1(ソ連型)

2009年には、豚や鳥の間で流行していた4種類のウイルスの遺伝子が混ざり、21世紀初の新型インフルエンザ「A/H1N1pdm09型」が登場した。
当初はブタ由来の新型インフルエンザとして対策がとられたが、その後全くの新型ではなく抗原性が大きく変わったウイルスととらえられるようになった。2011年度からは行政的にも通常の季節性インフルエンザとして扱われている。

新型はやがて毎年の様に流行する普通のインフルエンザになるが発生当初は免疫が効きにくい。政府は、人でも感染例がある鳥インフルエンザ「H7N9」を中心に、「新型」対策を進めている。
【メモ】
インフルエンザ、なぜ2回かかる? 流行過ぎても注意(日経Gooday 2019/2/20)
インフルエンザはなぜ毎年大流行するのか『感染症の世界史』(石弘之 カドブン 2018/3/9)
Aソ連型は‘進化の壁’を乗り越えられずにいたのではないか(齋藤玲子 日経メディカル2012/11/16)
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4.新型インフルエンザ

動物の間で流行していたA型ウイルスが大きく変異し、人間の間で流行する能力を持つと、新型インフルエンザになる。

ブタを経由した新型インフルエンザウイルスの誕生
トリとヒトとブタの糖鎖には違いがあるので、原則として、トリインフルはヒトには感染しない(それぞれのウイルスは特定の糖鎖を認識して細胞内に出入りする)。しかしブタはトリとヒトのインフルエンザウイルスが認識する糖鎖を両方持っているので、ブタを介してトリインフルがヒトに感染するようになるといわれている。

ブタを経由した新型インフルエンザウイルスの誕生と感染の拡大

ブタを介さずトリ型ウイルスが直接人間に感染
新型インフルエンザウイルスの誕生が懸念されるもう一つの可能性は、トリ型ウイルスがブタを介さず鳥から直接人間に感染した後、ヒト型ウイルスに変異する場合。
近年、主に東南アジアから中東にかけて鳥から人間に感染した事例が確認されているが、現段階では新型インフルエンザウイルスの誕生には至っていない。それは、ウイルス自体がまだトリ型ウイルスのままだから。人間が鳥から直接感染するのは、感染している鳥と濃厚接触(直接触れるなど)があった場合に限られると考えられている。
しかし、その後人間同士で感染を繰り返すと、ウイルスはヒト型ウイルスへと変異する可能性が出てくる。この変異が起こった時、新型インフルエンザウイルスの誕生となる。
【参考】
新型インフルエンザウイルスの出現に備えましょう(北海道立衛生研究所感染症センター)
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5.インフルエンザウイルスの増殖過程

① 細胞への吸着、侵入
インフルエンザウイルス感染はエンベロープ表面のスパイクヘマグルチニン(HA)がヒトの気道の細胞表面の受容体:糖鎖(シアル酸を末端に持つ糖タンパク質)に結合することから始まる。
結合したウイルスをリン脂質二重膜が包み込み、袋状になってから細胞表面を離れて細胞内都へと侵入(エンドサイトーシス)。
エンドサイトーシス関連の説明が別エントリー細胞膜の基礎にあります。
インフルエンザウイルスはどのように増殖250W01
出典:インフルエンザウイルスとは?(シオノギ製薬)

② 膜融合、脱殻
インフルエンザウイルスのエンベロープとエンドソームの膜が融合する。次に、ウイルス内部のRNAは細胞質に放出され、次いで細胞の核に入り込む。
このように、ウイルスの膜が分解されることによってRNAが細胞内に侵入してくる過程を脱殻だっかくと呼ぶ。
この状態のウイルスは、酵素が付いたRNA分子でしかない。

③ 複製、転写、翻訳
インフルエンザウイルスはどのように増殖02
出典:インフルエンザウイルスとは?(シオノギ製薬)

脱殻によって細胞質に遊離したRNA核の中に送り込まれる。
核の中に移行したRNAはウイルス自身が持つ酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)により、RNAをコピー(複製)し、mRNA(伝令RNA)を作る(転写)。
mRNAは細胞質に移動して、小胞体やゴルジ体でアミノ酸へと翻訳されウイルスタンパク質(HA,NA,M2など)が作られ、糖鎖付加などがされる。
このようにしてウイルスの増殖に必要なRNAタンパク質を大量に合成する。

④ 出芽
複製された8本に分かれたRNAがウイルスタンパク質とセットされ、子孫ウイルスとして細胞膜表面から出芽する。

⑤遊離、放出
子孫ウイルスはノイラミニダーゼ(NA)を使って、シアル酸糖鎖レセプターから自身を切り離し、細胞から出ていく。

【メモ】
ウイルスの培養:ウイルスは生きた細胞でしか増殖できない。そのため、ウイルスを増殖させるためには動物、孵化鶏卵、培養細胞のどれかを使用することになる。

【メモ】コロナウイルスとインフルエンザウイルスの増殖方式比較と今後期待される研究の可能性(朝倉幹晴公式サイ2020/2/24)
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6.抗インフルエンザウイルス薬

抗ウイルス薬は感染予防が目的のワクチンとは違い、感染細胞(宿主細胞)の中でウイルスの増殖を抑える治療薬である。 ウイルスを死滅させるベストな薬は現時点ではない。
ウイルスが宿主細胞に寄生してから脱出するまでのサイクルの一部プロセスを阻害することで、ウイルス性疾患の治療を行う薬である。

抗ウイルス薬の作用と種類
対象となるウイルス分類名称

細胞への侵入を阻害
RSウイルス侵入阻害薬シナジス
HIV
(エイズウイルス)
侵入阻害薬マラビロク

脱殻の過程を阻害
A型インフルエンザウイルスM2タンバク機能阻害薬シンメトレル

RNAの逆転写を阻害
HIV逆転写酵素阻害薬ジドブジン

遺伝子複製の過程を阻害
HIVインテグラーゼ阻害薬アイセントレス
インフルエンザウイルスエンドヌクレアーゼ阻害薬ゾルフーザ
インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼ阻害薬アビガン
B型肝炎ウイルスDNAポリメラーゼ阻害薬ラミブジン

タンパク質の合成を阻害
HIVプロテアーゼ阻害薬ロピナビル
HIVプロテアーゼ阻害薬リトナビル

細胞外への遊離を阻害
インフルエンザウイルスノイラミニダーゼ阻害薬リレンザ
タミフル
ラピアクタ
イナビル


シンメトレル、リレンザ、タミフル、ラピアクタ、イナビル

国内で使用可能な抗インフルエンザ7ウイルス薬発症後48時間以内に使用しなければ、効果はないといわれています。

出典:インフルエンザ(日本呼吸器学会)

上記表の作用機序の少し詳しい説明
M2蛋白阻害:宿主細胞への脱殻の過程を阻害
M2タンパクの作用を阻害することによってウイルスの脱殻および膜融合を阻害し増殖を抑制する。M2タンパクはA型インフルエンザウィルスにしかないので、A型インフルエンザのみに適応。

ノイラミニダーゼ阻害:細胞からの遊離の過程を阻害
感染した細胞とウイルスを切り離す酵素ノイラミニダーゼ(NA)の働きを阻害。ノイラミニダーゼにはいくつかの型があって、ノイラミニダーゼ阻害薬も、その型によって効果に差が出てくる。

効果について

なお、その効果はインフルエンザの症状が出始めてからの時間や病状により異なりますので、使用する・しないは医師の判断になります。
抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から48時間以内)に開始すると、発熱期間は通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少します。

出典:平成28年度インフルエンザQ&A Q.11(厚生労働省)

【参考】「抗インフルエンザ薬が効く」とはどういうことか(青島周一 DI Online 2017/12/29)

副作用について
“薬”なので副作用は避けられません。
これらの薬は市販薬ではなく医師が扱うものなので、医師の指導・判断によることになりますが、『添付文書』のPDFをリンクしておきます。(JAPICからのリンクです。)
シンメトレルリレンザタミフルラピアクタイナビル

【メモ】タミフルを子どもに飲ませても大丈夫ですか? (石橋涼子 WEDGE Infinity 2017/4/13)

アビガン
アビガン(ファビピラビル)の作用機序は、RNAポリメラーゼ阻害:RNA複製の過程を阻害
インフルエンザウイルスはRNAウイルスであり、RNAを鋳型にしてRNAを合成するRNA複製酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)を利用して増殖するので、その過程を阻害する。
この薬は様々なRNAウイルスに対して抗ウイルス効果を示すことが分かってきている。エボラウイルスに対しても、マウスでの動物実験で抗ウイルス効果が認められたことから、実際に2014~2015年の西アフリカにおけるエボラ出血熱流行地域において感染患者での臨床試験が進められ、エボラ出血熱の治療に関しての安全性と一定の効果が示唆されている。
これは他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分のものに限っての使用となっており、現在は一般には流通していない。要は新型ウイルスなどで他の抗インフルエンザウイルス薬が効かないときのために取っておきましょう、ということ。

【メモ】
資料1 新型インフルエンザ対策における抗インフルエンザウイルス薬の備蓄についてPDF(2016/12/16 新型インフルエンザ対策に関する小委員会 第6回医療・医薬品作業班会議)
資料1 新型インフルエンザ対策における抗インフルエンザウイルス薬の新たな備蓄方針の取りまとめ(案)PDF(2015/10/16 新型インフルエンザ等対策有識者会議 医療・公衆衛生に関する分科会(第7回))

ゾフルーザ
2018年に細胞内でウイルスの増殖を抑えるゾフルーザ(バロキサビル)が登場した。
ゾフルーザは、「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤」と呼ばれる種類の薬で、細胞内でのウイルスそのものが増えないようにする働きがある。
抗インフルエンザ7ウイルス薬2018
【参考】
インフルエンザ新薬「ゾフルーザ」に耐性ウイルス検出 もう使わない方がいいの?(市川衛 Yahoo個人 2019/2/13)
ゾフルーザ耐性株の検出率上昇で心配なこと(日経メディカル 2019/2/20)
インフルエンザ 変わる治療薬の市場―ゾフルーザがシェア拡大 タミフルには後発品登場(AnswersNews 2018/9/18)
第12話 「日本発、キャップ依存型インフル治療薬ゾフルーザの発見」(古市泰宏 日本RNA学会)

【参考】
抗インフルエンザ薬のメカニズム
抗インフルエンザ薬の作用
A  細胞内でウイルスのRNAが放出されるのを防ぐ:シンメトレル
B ウイルスのRNAの複製をさまたげる:アピガン
C ウイルスの部品を合成するRNAをつくる機能をさまたげる:ゾフルーザ
D 細胞からウイルスが放出されることを防ぐ:タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアタダルなど
出典:Newton

抗インフルエンザ薬の作用機序
出典:PDFインフルエンザの治療薬選択(ラジオNIKKEI2019/2/6)

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[ 2020/12/09(水) ] カテゴリ: 風邪,インフルエンザに関する事 | CM(0)
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