ポストさんてん日記

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第3の生命鎖、糖鎖(入口レベル)

[ 2020/12/01 (火) ]
糖鎖について、基礎とも言えない、ごく入口レベルの勉強です。

目次

1.糖鎖は第3の生命鎖
2.糖鎖の構造と特徴
 生体中で糖鎖はどこにあるの?
 糖鎖の特徴
3.糖鎖の機能と役割
4.主に参考にした資料
5.関連エントリー

1.糖鎖は第3の生命鎖

ヒトの体は約37兆個の細胞から成るが、すべての細胞は無数の糖鎖でうぶ毛のように覆われている。(1つの細胞に約500~10万本)
糖鎖とは、糖が鎖状に連なったもの(文字そのまま)。単糖と呼ばれる糖の分子が鎖状につながった高分子物質。
例えば、デンプンは、グルコースという単糖がたくさんつながった糖鎖の一種。単糖などの説明は別エントリー『炭水化物』は、糖類、糖質、食物繊維。おまけで人工甘味料、お酒のカロリーにあります。

人の体内には3つの生命鎖があり、いずれも生命活動に重要な役割を果たす鎖、高分子物質。第1の生命鎖は遺伝情報を伝達する核酸(DNA・RNA)、第2の生命鎖はタンパク質、そして第3の生命鎖として糖鎖が注目されるようになっている。
糖鎖は“細胞の顔”として細胞同士の認識や情報の交換を行い、体の組織や器官を形成する細胞社会のネットワークを維持しており、さらには、細菌やウイルス感染まで関与している。
少し大げさにいえば、糖鎖は、ありとあらゆる生命現象に関わっている。具体的には、細胞分化、老化、免疫応答などの生命現象や、がんの転移、ウイルス感染、炎症などの疾患にも関係していることが少しずつ明らかになってきた。ただ、その機能の多くはまだ未解明で、糖鎖は無限の可能性を秘めている。
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2.糖鎖の構造と特徴

生体中で糖鎖はどこにあるの?
糖鎖はタンパク質や脂質に結合した形、あるいは遊離の状態で存在する。
タンパク質に結合したものを糖タンパク質、リン脂質に結合したものを糖脂質と呼んでいる。
抗体のように細胞外に分泌されるタンパク質や細胞膜上にある膜タンパク質は、そのほとんどが糖タンパク質。多くのタンパク質は糖鎖を付加されその特異的な性質を発揮する。
遊離の糖鎖としてはヒアルロン酸が知られている。(糖鎖はヒアルロン酸を除き糖鎖単独では存在しない。)
抗体の糖鎖01

糖脂質、糖タンパク質01
出典:粘膜のバリア、ムチンと糖鎖(ロハスメディカル2020年秋号)
リン脂質二重膜の説明は別エントリー細胞膜の基礎にあります。

プロテオグリカン
糖タンパク質のひとつで、コアタンパク質(=プロテオ)にグリカン(=多糖)が結合した物質。
一般的には、1本のコアタンパク質に数本から数10本の糖鎖(グリコサミノグリカン、GAGと略)が結合している複合糖質を総称してプロテオグリカンと呼んでいる。
コアタンパク質に比較して糖の含量が多いため、細胞表面に存在する一般の糖タンパク質とは区別されている。
“細胞外マトリックス”を構成する成分のひとつ。
関連エントリー:細胞外マトリックスとは(入口レベル)
プロテオグリカン02
出典:プロテオグリカンと弘前大学 (フード・ペプタイド)

糖鎖の特徴
糖鎖の特徴は、その天文学的バリエーション。使われる単糖(糖としての最小単位、化学的に不安定)が10種類程度、単糖同士のつながり方(グリコシド結合)は理論上8通り(6員環の場合)あって、枝分かれもできる。さらに何個までしか繋げないという決まりもない。
そもそも、細胞表面に生えている糖鎖は、細胞が内部で作って*1表面まで送り出したものだが、細胞内では糖鎖の先端に単糖をつないでいく糖転移酵素というものが発現して、狙った糖鎖を育てる。
*1 糖鎖は粗面小胞体やゴルジ装置において、 糖転移酵素によりタンパク質や脂質に付加される。

1種類の糖転移酵素は単糖の組み合わせもつながり方も1種類だけしか結合させないので、現実に出来上がる糖鎖のバリエーションは限られたものになる。発現する酵素は、生物の種、細胞の種類、細胞の状態によって異なるため、出来上がる糖鎖も細胞内部の情報を反映することになる。

糖鎖の不思議な点は、遺伝子情報の地図のもとにつくられたタンパク質が合成された後に付加される点。しかも、核酸やタンパク質の場合と異なり設計図(鋳型)がどこにも存在せず、細胞に存在した単糖の材料と、発現していた糖転移酵素次第で出来上がるものも相当に異なるといういい加減さがある。恐らく、このいい加減さがあったからこそ、生命は環境変化に対応して生き残ってこられたのだろう。
2003年、30億塩基対から成るヒトのゲノムの全塩基配列が決定されたが、糖鎖にはゲノムの情報をこえた不思議な情報が隠されている。
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3.糖鎖の機能と役割

  • 細胞の種類などを識別
    • 血液型は表面の糖鎖構造の違いによってABO型に分けられている。
      この説明は別エントリー血液型は糖鎖の情報、血液型と新型コロナとの関係は?にあります。
    • 細胞が癌化すると細胞表面の糖鎖構造が大きく変化する。今日用いられている腫瘍マーカーの多くは糖鎖を抗原とする。
      例えば、すい臓ガンになるとシアリルルイスAという糖鎖が多く発生し、転移に関わっていることが分かってきている。このシアリルルイスを検出するCA19-9は、腫瘍マーカーとして有用。
  • 受精のメカニズムに関与
    • 精子と卵子それぞれが持つ糖鎖によって細胞間コミュニケーションをとりながら受精が成立。
    • 種特異的な受精のメカニズムを担う。(異なる動物種で受精が起こらないように制御)
  • 自然免疫は糖鎖で発動
    • 生物に作り出される糖鎖は、その種によって大きく異なり、ヒトが絶対に作らないようなものも存在する。私たちの免疫は、そのような糖鎖を認識した瞬間に、相手の詳細を調べることもなく「非自己」と判定して排除を始める。
  • 感染の入り口
    • 細菌やウイルスは細胞表面の特定の糖鎖を認識して体内に出入りするものが多い(受容体として機能)。
    • 増殖したインフルエンザウィルスが細胞外へ出るとき酵素(シアリダーゼ)で糖鎖(シアル酸)を切って出るが、インフルエンザ薬は、その酵素を阻害し効果を発揮する
  • タンパク質の品質管理
    • 古くなったり、傷ついた細胞の糖鎖を認識して、分解、新陳代謝の指標となる
  • タンパク質の保護
    • 細胞表面を覆い、分解や熱からタンパク質や細胞を守る
  • 薬への応用
    • 糖鎖によりバイオ医薬品(抗体医薬やホルモン)の活性がコントロールされている
    • 例:エリスロポエチン(貧血治療薬)は糖鎖が付かないと効果がない
    • 抗体に結合した糖鎖の構造によってCDC活性、ADCC活性が変動することが分かっている。
      CDC活性、ADCC活性の説明は別エントリー【基礎03】抗体とは~免疫の飛び道具にあります。
  • 薬を生体内に運ぶ
    • 糖鎖の特異的な反応を利用して、目的の臓器に適切に薬を運搬できる技術に応用できる

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4.主に参考にした資料

粘膜のバリア、ムチンと糖鎖(ロハスメディカル2020年秋号)
生体膜研究のすすめ(高知大学医学部生化学講座)
●PDF糖鎖の基礎知識(弘前大学医学部泌尿器科畠山真吾)
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5.関連エントリー

血液型は糖鎖の情報、血液型と新型コロナとの関係は?
細胞膜の基礎
●第3の生命鎖、糖鎖(入口レベル)←本エントリーです。
細胞外マトリックスとは(入口レベル)
[ 2020/12/01(火) ] カテゴリ: 基礎の基礎 | CM(0)
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