ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブしたり、医学分野の素人勉強をノートしたり、です。 リンクはご自由に。

【前編】色覚のしくみ、色覚異常の基礎

[ 2020/08/24 (月) ]
脳の勉強ノート、第10-2弾です。
少し前に、脳と感覚:視覚のしくみを勉強した時に、宿題として後回しにした項目です。
今回はその【前編】で基礎的な勉強です。
脳の勉強から少し逸れますがこのカテゴリーに収納します。

目次

1.網膜と視細胞
2.視細胞と視物質
3.色覚に関する用語について
4.色弱(色覚異常)のタイプ、割合
 錐体細胞は、L錐体、M錐体とS錐体の3種類
 色弱(色覚異常)のタイプ
 どの位の割合でいるのですか?
5.P型・D型色弱の発現
 赤オプシンと緑オプシンをコードする遺伝子はX染色体にある
 赤オプシン、緑オプシン遺伝子の変異と色覚タイプ
 多様な赤オプシン、緑オプシン遺伝子の変異が生ずる訳
 遺伝子型と表現型(色覚異常のタイプ)の不一致
6.P型・D型色弱の遺伝のしかた
 一般的な説明
 詳細説明01:女性の保因者は色弱にはならないか?
 詳細説明02:赤緑色弱の男性と保因者の女性の間に生まれた女児は50%の確率で赤緑色弱になる?
7.錐体細胞と進化、色覚の多様性の意味
8.主な参考文献、関連エントリー

1.網膜と視細胞
ここは、復習として、脳と感覚:視覚のしくみから転記です。
眼球と網膜の基本構造
出典:左図:目の構造(藤田眼科医院)
右図:iPS細胞由来の網膜組織を用いた視機能の回復(日本医療研究開発機構 2017/1/11)

網膜は光を感じ取る感覚網膜とそれを支える網膜色素上皮で構成。
  • 感覚網膜視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、(網膜)神経節細胞の5種類の神経細胞が層状になっている。
  • 視細胞錐体細胞すいたい細胞(図の緑色)桿体細胞かんたい細胞(図の灰色)との2種類。
    錐体は文字通りキリのように尖っているので“錐”。一方、桿体の“桿”は棒のような形を指し飛行機などの操縦桿の“桿”。それぞれ形のまんまの命名。
    • 錐体細胞:cone cell(図の緑色)は色の情報(光の3原色である赤・緑・青)を感知し、ものをはっきり見る機能をもち、主に黄斑部に存在している。赤・緑・青の光をそれぞれ吸収しやすい3種類がある。
    • 桿体細胞:rod cell(図の灰色)は光に対する感度が高く暗い所でものを見るための機能と周辺視野の機能をもち、主に網膜の周縁部に広く分布している。この桿体細胞は錐体細胞よりもはるかに数が多い。
  • 網膜色素上皮は、視細胞への栄養補給や老廃物の消化などを担い、感覚網膜の働きを助けている。
目に入った光が層を透過し、光のエネルギーが視細胞で電気信号に変換され、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞に伝達される。
眼球のレンズである水晶体から見て、視細胞の手前にいろいろ別の細胞があるのは、一見不合理で邪魔ではないかと心配だが、これが脊椎動物のスタイル。タコやイカではこんなことはない。脊椎動物は初期のたまたまのデザインをそのまま踏襲して引き継いでいる。

.
2.視細胞と視物質

色覚に関係するのは、明るいところで働く錐体細胞の方。赤、緑、青に反応する3種類の錐体細胞があって、それらを使って色を識別している。
視細胞は桿体細胞や錐体細胞のことで、これが「光センサー」。しかしミクロに見ると、視細胞の中に、特に光に反応する視物質があって、その部分で光の刺激が電気信号に変換されている。「光センサーの分子」が視物質。
視物質は、オプシン(タンパク質)と、レチナール(色素)の組み合わせでできていて、タンパク質オプシンの中に、色素レチナールが組み込まれている。
レチナールは光を受けるとぱっとすばやく構造が変化して、オプシンがそれを刺激として構造変化を起こす。それを引き金に一連の情報伝達系が活性化されて、最終的に視細胞全体が『過分極』つまり、興奮した状態になる。それが電気刺激となって、最終的に脳に行く。

光を受ける→色素(レチナール)が構造変化→タンパク質オプシンが構造変化→視細胞(桿体や錐体)が興奮→神経伝達→脳が「光が来た」と知る。

色素レチナールは、ビタミンAから合成されるもの(ビタミンA誘導体)で、脊椎動物ではだいたい同じものが使われている。
一方、タンパク質オプシンは、様々なバリエーションがある。錐体細胞に赤・緑・青に対応する3種類があるのは、レチナール(色素)ではなく、オプシン(タンパク質)の違いによる。
.
3.色覚に関する用語について

  • 日本眼科学会では、2007年以来、色覚異常という言葉は使っても、色盲や色弱という言葉は使っていない。
    以前の色盲は2色覚(まれだが1色覚もあり得る)、以前の色弱は異常3色覚。
  • CUDO(NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構)やCUD(人にやさしい色づかいをすすめる会)では色弱を提唱。
    現在の「色彩コミュニケーション社会」における「弱者」として「色弱」を再定義しましたが、決して色に弱いということではありません。従来呼称の色盲・色弱・色神異常・色覚異常・色覚特性等の言葉や表現を尊重しつつ「色弱者」という表現を使用しています。
  • 日本遺伝学会が2017年9月に改訂した遺伝学用語集「遺伝単」では、色覚多様性を提唱。
言葉の言い換えについては多くの議論が延々と繰り返されてきたが,大切なのは言葉ではなく,その程度や質にかかわらず様々な色覚特性を持つ人がバリアフリーに暮らせる具体的な方策を提案することである.

本エントリーでは、原則としてCUCDの提唱に沿う表現としたが、図表はオリジナルのまま引用。
.
4.色弱(色覚異常)のタイプ、割合

錐体細胞は、L錐体、M錐体とS錐体の3種類
ヒトの錐体細胞は3色にそれぞれに対応する3種類。
  • L錐体 Long wave sensitive cone:長波長付近の光(赤)に対応する赤オプシンを持っている。
  • M錐体 Middle wave sensitive cone:中波長付近の光(緑)に対応する緑オプシンを持っている。
  • S錐体 Short wave sensitive cone:短波長付近の光(青)に対応する青オプシンを持っている。
ヒトの視物質タンパク質は上記のほか、桿体細胞に存在するロドプシン(rhodopsin)の計4 種類。

色弱(色覚異常)のタイプ
色弱(色覚異常)は、少なくとも1種類の錐体細胞を欠損している人が持っている障害である。
3つの椎体の分光特性
人間の3つの椎体の分光特性02
出典:色覚についての基礎知識(人にやさしい色づかいをすすめる会)

上の光の帯(シミュレーション画像)で、一番上のC型がL,M,S錐体のすべてをもっている人が見る光の色。
それに対してすぐ下のP型強度の帯は、右端がかなり暗い色になっている。L錐体がない、つまり長波長付近の光(赤)に反応しないため、暗く見える。
また、これらの図で重要なことは、P型D型の場合、緑系と赤系が似通った色相に見えること。(赤と緑の視物質は吸収スペクトルの重複が大きいので、どちらが異常になっても似た症状になる。)
異なる色なのに、ある人にとっては似たような色に見えていることがわかる。(シミュレーション画像は、一例であり、見え方を正確に再現したものではない。)

CUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)頻度
(男性)
日本眼科学会
錐体細胞タイプ呼称タイプ



C型一般色覚者約95%正常色覚
P型強度色弱者約1.5%1型2色覚
弱度1型3色覚
D型強度約3.5%2型2色覚
弱度2型3色覚
T型約0.001%3型2色覚
A型約0.001%杆体1色覚
全色盲【旧】
  • C型:Common のC(「よくある」とか「ありふれた」という意味)。「正常」かどうかはともかく、少なくとも多数派ではあるわけで、それを「コモン」と呼ぶのは理にかなっている。
  • P型:Protanopes のPは「proto(第一の)」+「an(欠損)」+「opia(視覚)」、つまり「第一の欠損色覚」のような語感。具体的には、赤オプシンが変異したり欠けている色覚。
  • D型:Deuteranopes のDは「deuter(deutero)(第二の)」で、緑オプシンが変異したり欠けたりしている色覚。
  • T型:Tritanope。青オプシンが変異したり欠けたりしている色覚。該当者が極めて少ない。
  • A型:Acromat。全てもしくは2種類の錐体細胞を欠損している色覚。これは珍しいが、ミクロネシアのピンゲラップ島で多くみられる。かつて台風で住民が壊滅した時の生き残りである20人の中にA型の人がいたためだと考えられている。

どの位の割合でいるのですか?
出典:冊子「色覚異常を正しく理解するために」(日本眼科医会 2019/3/15)
通常、先天性の色覚異常というとP型D型(先天赤緑色覚異常)
発生頻度は、日本人では男性の5%女性の0.2%。つまり、男性では20人に1人、女性では500人に1人の割合。決してまれではない。
ちなみに、白人男性における発生頻度は8 ~ 10%、女性では0.5%とされている。
女性の場合は、色覚は正常であっても、保因者といってP型・D型色弱(先天赤緑色覚異常)の遺伝子をもっていることがある。この保因者の頻度は10%、10 人に1人。
.
5.P型・D型色弱の発現

赤オプシンと緑オプシンをコードする遺伝子はX染色体にある

赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子の   緑オプシン遺伝子の数
X染色体上での配置

赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子のX染色体上での配置 緑オプシン遺伝子の数
赤オプシン遺伝子の下流に緑オプシン遺伝子が隣接して配置しており、赤オプシン遺伝子が1コピー、緑オプシン遺伝子が1 ~数コピー存在している。緑オプシン遺伝子の数には個人差がある。
X染色体上では上流から赤、緑の順にオプシン遺伝子が並ぶが、各錐体において発現するのは上流の2つのうちのどちらかであり、3番目以降が発現することはない。したがって通常は、最初の赤オプシンか、その後ろの緑オプシンの、どちらかが発現することになる。(仮に、発現割合が同じだとすれば、L錐体とM錐体が同数発現する。)
出典:PDF第1 回色覚の原理と色盲のメカニズム(岡部正隆 伊藤啓 細胞工学Vol.21 No.7 2002)

ヒトにおいて、赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子の構造は非常によく似ており、塩基配列レベルでの相同性は98%と非常に高いことと、両者がX染色体上で隣接して配置されていることは、この2つの遺伝子が進化の過程で遺伝子重複によって生じたことを想像させる。

ちなみに、ロドプシン、青オプシンのアミノ酸をコードする遺伝子は、それぞれ第3染色体と第7染色体に存在している。

赤オプシン、緑オプシン遺伝子の変異と色覚タイプ
ヒトで見られるL/Mオプシン遺伝子の変異と色覚型02
2~5段目にある赤と緑の2色を含む矢印がハイブリッド・オプシン
出典:第4回 なぜ霊長類はまた3色型色覚を獲得したのか(2016/2/4)を一部改変

明確な色覚の変異の頻度は、ヒトの場合、男性の3~8%。あいだをとってだいたい5%だが、緑オプシンと赤オプシンの遺伝子の前半と後半が組み換わったハイブリッド・オプシン50%近く見られる。これは軽微な変異を含んでいる。軽微というのは、遺伝子の入れ替わり方によっては、色覚の検査をしても検出できないくらいの違いしか出ないもので『軽微な変異3色型色覚』と言っている。別の組み合わせになると検出できる違いが出てきて、『明確な変異3色型色覚』(P型弱度、D型弱度)になる。

多様な赤オプシン、緑オプシン遺伝子の変異が生ずる訳
配偶子(卵子や精子)ができるときに行われる減数分裂で、交叉によって相同的組み換えが生じる。
【一般的な参考情報】(勉強になりました)
【生物基礎】 遺伝子24 減数分裂 (15分)(映像授業 Try IT(トライイット))
【高校生物】 生殖6 独立と連鎖(25分)(映像授業 Try IT(トライイット))

不等交叉による相同組換えと色盲の成立A
第1 回色覚の原理と色盲のメカニズムを参考に作成(以下、同様)
Aのような相同組換えが生じると、一方の染色体では赤オプシン遺伝子が欠失しP型強度になる。もう一方の染色体では赤オプシン遺伝子が重複しD型強度になる。

不等交叉による相同組換えと色盲の成立B
相同組換えは2番目以降のオプシン遺伝子にも起こる。多くの人は緑オプシン遺伝子を複数持っているので2番目の緑オプシン遺伝子が欠失しても3番目が2番目の位置に繰り上がり問題はない(ただし、緑オプシンを1つしか持たない人にこの欠失変異が起こると、この遺伝子座から緑オプシン遺伝子が失われD型強度になる)。このような2番目以降の遺伝子の欠失や重複は1番目の欠失や重複と同等の頻度で起きていると考えられるが問題は発生しない。

不等交叉による相同組換えと色盲の成立C
相同組換えは遺伝子単位で起こるだけでなく、遺伝子の中間で起こることもある。Cに示すような相同組換えが生じると、赤オプシンと緑オプシンが中間で組み合わさったハイブリッドオプシン遺伝子ができる。これによりP型弱度D型弱度になる。
ただし、どの位置で組換えが起きたかによって、ハイブリッド視物質の分光吸収特性は赤視物質と緑視物質の特性の中間で段階的に変化する。
ハイブリッド視物質の分光吸収特性が非常に大きく変化して、もう1つの視物質とほとんど差がなくなってしまえば、P型強度やD型強度になる。一方で、ハイブリッド視物質の分光吸収特性が少ししか変化せず、もう1つの視物質と十分に違っていれば、ハイブリッド遺伝子を持つにもかかわらず現行の色覚検査では「正常」と診断される。

遺伝子型と表現型(色覚異常のタイプ)の不一致
X染色体には多数のオプシン遺伝子が連続して並んでいるにもかかわらず、色覚に関与するのは最初の2つだけだというメカニズムは、遺伝子型と表現型の不一致の原因にもなる。
上図Aの右下の人はPCRなどで検査をすれば通常の緑オプシン遺伝子が検出されるにもかかわらず、表現型はD型強度になる。
また赤,緑,ハイブリッド遺伝子がこの順に並んでいる人は,PCRなどでハイブリッド遺伝子が検出されるにもかかわらず、C型(一般色覚者)となる。すなわち、P型・D型色弱は単純な遺伝子検査では診断できない。
.
6.P型・D型色弱の遺伝のしかた

一般的な説明
色弱の遺伝子の遺伝のしかた
出典:PDFこころの色(NPO法人北海道カラーユニバーサルデザイン機構)

P型・D型色弱はX連鎖性遺伝=伴性潜性遺伝。
  • 男性はX遺伝子を1つしか持たないので、色弱の遺伝子を1つ持てば色弱になる。
  • 女性は因子は2つそろわないと色弱にならない。因子を1つ持つ女性は色弱ではないが遺伝子を持つので保因者といわれる。(保因者の色覚も特殊な検査をすれば正常と少し異なる部分が見つかるが、実際にはC型(一般色覚者)の色覚)

詳細説明01:女性の保因者は色弱にはならないか?
上図でXの女性は保因者といい色弱にはならないとしている。
これは一方のX染色体に変異があっても、もう片方のX染色体が正常型遺伝子を持つので、機能的に補われていると解釈されているが、まれではあるが色弱になる。
(性染色体以外の)常染色体では、二本の染色体に載った対立遺伝子の両方が細胞内で同時に発現している。したがってその一方が変異を有していても、細胞には常に正常な遺伝子が発現し、すべての細胞において機能が補われることになる。
しかし(性染色体である)X染色体は、男性では一本、女性では二本と本数が異なるので、そのままでは発現量に2倍の差が生じてしまう。そこで女性の身体を構成する各細胞では、どちらか一方のX染色体が不活性化され、つねに一本の染色体の遺伝子しか発現しないように調整されている。(三毛猫の縞模様がX染色体上の毛色遺伝子で決まるのがこの仕組み)
網膜においても、それぞれの錐体細胞では一方のX染色体が不活性化されている。したがって保因者の女性では、正常染色体か変異染色体のどちらか一方が活性化された細胞群が、網膜上に平均50%ずつの割合でモザイク状に配列している。
すなわち、保因者の女性は視細胞の半分で赤緑色弱変異が載ったほうのX染色体が活性化している。にもかかわらず、ほとんどの人は赤緑色弱の表現型を示さない。
  • まず第1に、変異染色体が活性化された細胞群が、網膜上にパッチを作っていても視野の中心をなす網膜の黄斑部なければ影響は表れない。
  • 第2に、変異染色体が活性化された細胞群の比較的小さなパッチが正常型染色体が活性化された細胞群のパッチと入り混じって存在する場合には、たとえそれが網膜の黄斑部であっても色弱の表現型が表われにくい。眼は常に細かく動きながら物体を捉えており(サッカード)、多数の錐体細胞からの情報を総合して色を判断するので、パッチが入り混じった状態では実質的には3種の錐体の比率が多少偏っているだけになる。
  • 第3の理由に、色認識には左右の眼からの情報が統合されることが挙げられる。女性で片方の眼だけが色弱になっている人は存在するが、このような人は片眼ずつ調べて初めて色弱の表現型が出るのであって、通常の色覚検査では色弱と判定されない。

詳細説明02:赤緑色弱の男性と保因者の女性の間に生まれた女児は50%の確率で赤緑色弱になる?
上図Eの例である。
これは、1つの遺伝子の変異だけで表現型が生じる伴性劣性遺伝の場合には正しい計算だが、色覚遺伝の場合には状況は単純ではない。
例えば、下図Aのように、変異を有する遺伝子が同じものであれば、50%の確率は正しい。
赤緑色弱の男性と保因者の女性の組み合わせにおける遺伝形式A
次世代は女性のみを示している。

しかし、下図Bのように、変異を有するオプシン遺伝子が男性と保因者の女性で異なる場合は、右上のように、たとえ変異を持っているX染色体が対となって女児に伝わったとしても、この女児においては表現型を生じない。
しかしながらその女児の二本のX染色体にはどちらにも変異が存在するので、将来この女性が産んだ男児は必ずP型弱度かD型弱度のどちらかになる。
赤緑色弱の男性と保因者の女性の組み合わせにおける遺伝形式B
次世代は女性のみを示している。

.
7.錐体細胞と進化、色覚の多様性の意味

以下、【研究室に行ってみた。東京大学 色覚の進化 河村正二(ナショナルジオグラフィック日本版サイト)】から部分的に引用。

4種類の錐体オプシンと、1種類の桿体オプシンということで、5種類。
『○』をつけているのはそれを1個持っているという意味、『◎』にしているのは、同じ型でも2つ以上の微妙に違ったサブタイプを持っている場合。

脊椎動物視覚オプシンのレパートリー

魚類はすべて『◎』で多様な色覚を発達させたのがわかります。それと、哺乳類を除く四足動物は基本的にこれらを1個ずつ持っている4色型。先祖代々のセンサーをずっと大事に1個ずつ維持している。
哺乳類についてもうちょっと詳しく見ると、いったん緑型と青型をなくして、2色型になってしまったことが分かる。また、さらに霊長類は、いったんなくした緑型を、赤型のサブタイプとして新たに創りだしたことや、紫外線型だったものを青方面に寄せて青型のように使っていることなども。

どうして魚類がそれだけ各タイプを多様化させるのかということですが、それは水中の光環境が非常に多様だということであろうと考えています。水深によっても届く光の波長がずいぶん変わってくるし、大洋とか深海溝でも違います。

哺乳類は、魚類のみならず、両生類爬虫類鳥類とは違って、いったん2色型色覚になっており、霊長類で3色型になったという経緯を持っている。
中生代の恐竜の時代、おそらくわれわれの祖先は、夜行性の小動物だったと考えられていて、暗いところでは高度な色覚は必要なかったと考えられています。むしろ夜行性への適応をしたほうが、はるかに彼らにとってはよかったのではないかと。それで基本的に脊椎動物は4色型なんだけれど、哺乳類は錐体を2種類失って、2色型になったんです。霊長類以外の哺乳類はだいたいそうです。

というわけで、今、視覚の動物である霊長類は、失った緑のオプシンを、赤のオプシンを変異させることで、また、青のオプシンは、紫外線オプシンを青方面にスライドすることで、RGBの色空間を得た。その背景には、霊長類が暮らしていた森の環境があるのではないか、と考えられている。
葉の緑と果実が熟した時などの赤を識別できるかというと、2色型はできないんです。明度(明暗)が違えば識別できますけど、同じ明度で、色度だけをたよりに区別しようとしても完全に埋もれてしまう。2000年に発表された有名な研究があって、森の中での3色型色覚の有利性を示した図があります。

ヒトをサーベイすると、通常の3色型色覚だけではなくて、緑オプシンと赤オプシンの遺伝子の前半と後半が組み換わったハイブリッド・オプシンが、50%近く見られます。こういうのは、テナガザルを150個体以上みても、1個体もいませんでした。

5項の図のオリジナル版
ヒトで見られるL/Mオプシン遺伝子の変異と色覚型

ヒトの場合、男性の5%だった「色覚異常」が、テナガザルではゼロ。チンパンジーでは、0.6%。カニクイザルなどのマカクでは、さんざん探して0.4%との報告だという。ヒトとは文字通り「桁」が違う。

「僕たちは、新世界ザルに注目しました」と河村さん。
新世界ザルでは、色覚多型であることがごくふつうなんです。ひとつの集団の中に2色型と3色型がふつうにいるので、彼らの果実採食効率を比較するとかすれば、3色型色覚が本当に果実を食べるのに良いのかとか、さまざまな色覚型を持つ意味が検証できるだろうということです。

そこで、行動観察もちゃんと数値化することにしました。果実を発見してから食べるまでの流れを考えると、まず見つけるところから始まりますね。これを『発見』とします。それからかじったり、臭いをかいだり、触ったり、じっと見つめたりして確かめる。これをインスペクション、『検査』。それから最終的に食べるか、口に入れてからペッと吐き出すか、あるいは食べずにポンと捨てるか。これを『摂食』。そういったふうに定義して、単位時間当たりにどれだけのことをやるか割り出してみたんです。果実検出の頻度ですとか、正確さ、そして、時間あたりで考えたエネルギー効率ですとか。さらに、嗅覚にどれだけ依存するか。けっこうサルはよく臭いをかぐので、気になりだして、これも観察して評価しました

その結果、驚くべきことが分かった。理論的には、3色型が有利になって然るべきなのだが……。
予想に反して、3色型と2色型に違いがまったくありませんでした。さきほどの3つの行動指標のどれでも、まったく差がない。どういうことだというので、結局あれこれやってわかったことは、実は明るさのコントラストが一番利いていたということになったんです。

ひとつの解釈は、僕たちの観察は、サルが果実のすぐ近くに行ってから先の行動を見ているんですね。一旦近くまで行ったら、色覚型の優位性ってほとんどなくなっちゃうんじゃないかというものです。それから、臭いをよくかぐんですけど。これ熟してもあまり色が変わらなくて葉っぱと見た目が似ている果実の方をよく嗅ぐんです。3色型も2色型も同じです。つまり、眼で見てよくわからないのは、臭いをかいで、その結果として食べたり食べなかったり決めると。使える感覚は何でも使って採食を行っていると。言われてみれば当たり前のことがわかったんですけども、要するに3色型がすべてを決定しているキーではないということですね

実は、2色型のほうが良いという事例まで見つかってきたんです。それは昆虫を食べる時です。2色型色覚は確かに赤・緑の色コントラストに弱いけれども、逆に明るさのコントラストや形や形状の違いに非常に敏感なんです。それで、カムフラージュしているものに対しては2色型のほうがより強いと。それで、単位時間当たりにどれだけ昆虫をつかまえたかというのをオマキザルで実際に調べたら、2色型のほうが良いとわかりました。特に森の中で日が差さない暗いところに行けば行くほど、2色型が有利で、3倍近く効率がいいんです。

野生の動物で2色型のほうが有利であったというデータはこれが初めての報告だったので、この研究は、「サイエンス」誌のオンラインニュースに内容がピックアップされて紹介されるほど話題を呼んだ。

こういう2色型有利の結果が出る理論的な説明として、非常に興味深いものがあるので紹介する。
霊長類の赤・緑色覚というのは、実は物の形を見る神経回路をそのまま使っていて、物の輪郭を見る機能を犠牲にしているんですよ。なので、サルに丸いパターンを選ぶと餌がもらえるという訓練をして、それを緑だけ、赤だけで訓練を重ねていって学習をしたあとに、ときどきモザイクになっているやつを混ぜる実験をします。そうすると3色型色覚のサルは、とにかくすぐにエサがほしくて手を出して、正答率が偶然レベルまで落ちてしまうんです。人間に同じテストをやると、間違えはしないんですが、答えまでの時間が長くなります。

さて、なぜ、こういうことになっているのか。完全に2色型と3色型で差がないとなると、遺伝の多様性をどうやって維持するかという話になってきて、中立変異と同じになっちゃいます。中立変異はいずれは消える運命なので、それにもかかわらずさまざまな色覚の型が残っているということは、何らかのメリットがないといけないはずです。やはり、2色型には2色型のよいところがあって、3色型には3色型のよいところがあって、両方いることはいいのではないかということですね

少なくともヒトでは、3色型を維持する選択圧は緩んでいるんでしょう。では、なにが選択圧を緩ませているのかなんですけども、少なくとも産業革命や農耕文明といったことではないんじゃないかというのが、今の考えです。というのは、赤オプシンや緑オプシンの一方がないのも、オプシン遺伝子の前半後半が組み換わったハイブリッド・オプシンも、ほとんど集団によらないんです。ヨーロッパ系であろうと、アフリカ系であろうと、アジア系であろうが。狩猟採集民だろうが、農耕民だろうが、どこでもわりと簡単に見つかるんですよね。そうすると、こういったものはずっと前からあるということになるわけです

ヒトにおいて、色覚多型は、普遍的。どこにいっても一緒。ということになると、ヒトがヒトとして成り立った時には、もう「3色型だけ」を維持する選択圧は緩んでいたということだろうか。

ひとつ考えられるのが、森林の外での狩猟です。3色型色覚はそもそも、霊長類の森林適応だとされているわけですから。ヒトは約200万年前、ホモ属になったあたりから森林を出てサバンナを主な生活の場にして、石器をつくって狩りをして生き延びてきた種であって、それはゴリラやチンパンジーとはまったく違う生態系であるわけですね。そうすると、狩猟において獲物はカムフラージュがかかっているし、狩猟をすれば自分も肉食獣に狩られるかもしれない。肉食獣はたいていカムフラージュがかかっているから、集団の中に2色型や明確な変異3色型の人がいることが、それぞれの生存に有利につながる可能性も考えられる。単に緩んだだけではなく、多様性のなかにメリットがあるんじゃないかという話です

ここで、なにか涼やかな風が吹いたように感じた。「2色型や明確な変異3色型」というのは、今の医学の言葉では「色覚異常」とされる。しかし河村さんの研究の上に立って見渡すと、実はヒトの集団が持っているのは「異常」ではなく、「多型」なのだ。

感覚について、これが優れているとか、優れていないとかいうのは、間違っていると思います。3色型は2色型より優れている、あるいはその逆とかいうのは、進化の視点から見たらかなり違う。常識で思っている優劣、とくにそれが遺伝子に根ざしているものには、多くの場合、別の理由があるんです。ここに至るまでにものすごく長い歴史があって、その中で培われてきたもので、そこで生き延びてきたことには意味がある。一見、不利なようなものが、実はそれがあったからヒトがいるのだと。ヒトの色覚多型は、その一例なんだと思います。


【メモ】
「色覚異常」は本当に異常なのか?
吉森保×川端裕人 ライフサイエンス対談(後編)(日経ビジネス2021/3/12)
「色覚検査の攻略本」「本当は効かない色弱治療」はなぜ存在したのか 進学・就職制限を受けてきた「色弱」の歴史とこれから (1/3) (伊賀公一氏へのインタビュー ねとらぼ 2018/11/30)
.
8.主な参考文献、関連エントリー

個別に出典を記載した資料の他は以下の資料。

●PDF第1 回色覚の原理と色盲のメカニズム(岡部正隆 伊藤啓 細胞工学Vol.21 No.7 2002)
研究室に行ってみた。東京大学 色覚の進化 河村正二(ナショナルジオグラフィック日本版サイト)
色覚バリアフリープレゼンテーション法(岡部正隆 伊藤啓 2016年8月)

関連エントリー

脳と感覚:視覚のしくみ
【後編】カラーユニバーサルデザイン、色使いの方法

メモ

色覚異常といわれたら(日本眼科医会)
[ 2020/08/24(月) ] カテゴリ: 脳の勉強ノート | CM(0)
コメントの投稿










管理者にだけ表示を許可する
このブログについて
管理人 icchou から簡単な説明です 更新,追記の通知はTwitter
カテゴリ
最新記事
プロフィール

icchou

管理人:icchou
   非常勤講師

累計訪問者
ブログ内検索